ホームラン王子と過ぎ去った青春をもう一度
6/誹謗中傷は2人を引き裂く
『ホームラン王子、電撃引退の真相!』

 そんな衝撃的な見出しとともに世間を騒がせたのは、それから1週間後のことだった。
 私の元に突撃取材をしてきた大手のテレビ番組が大々的に一大スクープとして取り上げ、小出くんは一躍時の人となる。
 こんな状態では外回りなどできるはずもなく、彼はオフィスに引きこもって慣れない事務作業をしていた。

「何考えてんだよ、テレビ局の奴ら……。俺はもう、一般人だぞ……?」

 来客用のテレビに四六時中自分の姿が映っているのが視界に入り、苛立って仕方がないのだろう。
 キーボードを叩く小出くんの手が、普段よりも荒々しくなっている。

 ――モザイクつきで報じられている私なんかよりもずっと、同級生の感じる精神的な負荷は相当なものだ。

「ねぇ、小出くん……。仕事、休んだほうがいいんじゃ……」
「何言ってんだよ。高藤が普通に出社してんだから、俺だって……」
「高藤さん! 内線3番ですー!」
「はい」

 教育係として、新人の休息を促すのも仕事のうちだろう。
 そう考えての提案は、内線電話のせいで中断される。
 私は当然のように受話器を取って出たことを、後悔した。
< 39 / 62 >

この作品をシェア

pagetop