Devil's Night
 
 長い葛藤の末、そこに書かれている手書きの数字を、ふるえる指で押した。コールが続くが、なかなか出ない。


――まだ仕事中なのかも知れない。


 あきらめかけたとき「はい」と声がした。


「饗庭さん、私……」


 そう言ったきり、言葉がつながらない。


「もしかしてお弁当屋さんの子?」


 明るく温かい声が、凍える胸に沁みて、私は名刺を握りしめたまま、涙をこぼしていた。

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