Devil's Night
それでも、香織は次に私と会ったときにはまた何もなかったように接してくるような気がする。今夜みたいに。
「カイ。香織に暗示でもかけてるの?」
自分の声が不信感をはらんで暗く響いた。それは自分でも有り得ない妄想だと思っているのに、カイが
「僕に興味や好意を持ってる人間をマインドコントロールするのはたやすいことだ」
と言うと、彼には本当に人を洗脳したり、催眠術にかけたりする力があるように思えてくる。
「美月。そんな怖い顔をしなくてもいいじゃないか」
白衣のカイが立ち上がり、応接セットのソファに腰を下ろした。
「おまえが迷ってるようだから、香織を使っただけだ」
まるで私が夜間外来の入り口にいたことを、知っているような口ぶり。
「どうして私がここに来るってわかってたの?」
全てがカイによって仕組まれているような気がしてならない。
「大学病院からこれが送られてきたからね」
カイがプリンターに手をのばし、そこから取った書類をセンターテーブルの上に置いた。それは、電子カルテのコピーだった。
「この病院の院長はカネ儲けが大好きな男でね」
カイが嘲笑する。
「あなたのお父さんなんでしょ?」
「ああ。行きがかり上ね。けど、割と気が合うから邪魔にはならない」
全く体温を感じさせない口調だった。