Devil's Night
 
 男に呼ばれ、群衆のうしろから若い神父が歩み出た。その顔には困惑がにじみ出ている。


 カイが、『魔女狩りは集団ヒステリーだ』と言っていた。教会主導で魔女狩りを行う地域が多いのは事実だが、黒いスータン(法衣)を着たその人は、極端な集団心理に付き合わされ、戸惑っているように見える。


 『神父様』と呼ばれた男が、すぐそばに膝をつき、私の手を取った。彼の指先が、脈をとるように私の手首に触れる。

 
――この手は……。


 その人の顔を見るのは初めてなのに、その懐かしいぬくもりを私は知っていた。 


『省吾さん……!』


 リアと同化している私の心が叫ぶ。それは間違いなく、夫の手だと直感した。
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