Devil's Night
 
 【1994.10.30 東京】


「美月ちゃん!」


 赤いランドセルを揺らしながら、同じクラスの香織が走ってくる。


「あ。かおりん、おはよ」


 香織は私に追いつくなり、
「聞いた? 優太の話」
と、息を切らしたまま、しゃべり始める。


 桜木優太は4年3組でいちばん活発な男の子。体育もイタズラもクラスで1番だ。


「ううん、知らない。優太、また何かしたの?」


 私は、内心またかと思いながら、聞き返す。


「優太のヤツ、またゴーストアパートの中、入ったんだって! しかも、今度は夜だよ?」


 正直なところ、ムチャばかりする優太の武勇伝にはうんざりしていたけれど、あの昼間見ても気味の悪い廃墟みたいな場所に、暗くなってから入るなんて、想像するだけでゾッとする。


 私たちが『ゴースト アパート』と呼ぶ廃屋は、通学路の途中にあった。大きなレンガ造りの2階建てで、窓は申し訳程度の小さなものがひとつきり。屋根も壁も床も、半分ほどが崩れてなくなっている。それなのに、いまだに取り壊されない。


『撤去しようとすると必ず事故が起きる』


 そんな、怪談にはつきもののウワサが、まことしやかに流れている。



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