落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜
 帰りの馬車で私は、さっき作ったお菓子を渡すタイミングを見計らっていた。

 隣に座るライオネル様の様子をチラチラと窺っていると、彼と目が合う。
 ライオネル様は金色の瞳をスッと細め、優しく微笑んだ。
(うっ、破壊力が……っ)

「アンディに、菓子作りを教わっていたのだろう? 上手く出来たのか?」
「あ、はい、どうにか。難しかったですが、楽しかったです!」
「そうか」
 今がチャンスと、私は手に持っていた包みをライオネル様に差し出す。

「これ、ライオネル様に! いつも護衛してくださるお礼です! ぜひ、召し上がってください!」
 ライオネル様は驚いたように目を丸くし、包みを受け取ってくれた。
「護衛のお礼などはいいのだが。これは有り難く受け取っておく。……ありがとう」
 ライオネル様は少し、はにかんだように笑う。
(良かった……。喜んでもらえたみたい)

「今、食べてみてもいいか?」
「は、はい、どうぞ!」
 ちょっと下手で恥ずかしいけど、アンディさんにもチェックしてもらったから大丈夫だろう。

 ガサガサと包みを広げると、ライオネル様はビスケットを一つつまんだ。
「ん、これは……リスか?」
 まじまじと見つめた後、口に入れた。私は固唾を飲んで見守る。
「ど、どうですか?」
「……あぁ、うまい」
 ライオネル様の言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろしていると……。

「……それにしても、リスの菓子とは、可愛すぎるのではないか」
「え?」
(ん? 可愛すぎる?)
 
 聞き間違いかと思って、ライオネル様の顔を見上げると、彼は慌てたように口元を押さえていた。

「えっ? どうしたんですか?」
 もしかして、本当はおいしくなかったのでは、と心配になって、ライオネル様の方に顔を近づける。

「あ、いや……、何でもな……っ、これ以上、近づかないでくれ。そんなつぶらな瞳で見つめられたら、俺は君を離せなくなってしまう」

「…………なっ!?」
 顔から火が出そうになる。
 聞き間違いではなかった。たしかにライオネル様の口から発せられていた。

「いや、違……っ、今すぐ君の小さな体を抱きしめて、その赤い唇に触れたい。……今日はこのまま、君を帰したくはない」

 私の鼓動は激しく高鳴る。
(なっ、なっ、今のは何!?)

 ライオネル様は顔を赤くして、必死に口を押さえている。

(おかしいわ、絶対におかしい! ライオネル様がこんな言葉を言うはず――あっ!?)
 私は、ハッとする。もしかして、さっきアンディさんから手渡された甘いパウダーのせいではと、思い至った。

(あれはお菓子が甘くなるパウダーじゃなくて、ライオネル様が甘くなるパウダーってこと!?)

 このままじゃ、ライオネル様は言いたくもない言葉を、ずっと言うことになる。 

「た、大変です、ライオネル様! 今すぐに吐き出してください!」
「いや、大丈夫……だ。もう平気だ」
 ライオネル様の口からは、もう甘い言葉は出てこなかった。私は安心して大きく息を吐いた。

「はぁ、すみません。私のせいです……」 
「いや、アンディの仕業だろう? ……愛を語る、甘い粉があると聞いたことはあるが……」
「愛を語る? そんな、思ってもない言葉まで出るなんて、とんでもない粉ですね……」

「……いや、……本心しか語れないんだ……」
 ライオネル様はバツの悪そうな顔をして、手で顔を覆う。
「……本心……?」

(……って、え!?)
 色々と耳を疑うような言葉を、いっぱい聞いたような気がする。
 私の熱が再び上昇し始める。

「あ、あ、ライオネル様、すみませんっ、こんなお菓子捨てましょう!」
 私がライオネル様の手元から包みを取り上げようとすると、彼は体の後ろに隠す。

「そうはいかない。折角、君が作ってくれたのだから」
「で、ですが、そんな怪しいものが入ったお菓子なんてっ」
 また食べて、さっきみたいなことになったら大変だ。
(そりゃあ、ちょっと、いや、かなりときめいたけど……っ!)

「処分しますので、返してくださいっ!」
「嫌だ」
 ライオネル様は頑なに返そうとしなかった。どうにかして、返してもらわないといけない。

「じゃあ、私が食べますので、返してくださいっ!」

 すると、ライオネル様は一瞬目を見開き、口角を僅かに上げた。

「なるほど、それもいいな……」

 そう呟くと、後ろに隠していた包みを取り出す。そして、ビスケットを指でつまみ、私の前に差し出した。
 ふわりとバターの香りが漂う。
 私はその目の前に差し出されたリス形のビスケットを、ぽかんと見つめた。

「え? どうしたんですか?」

「アイリス、君が食べるのだろう? ……俺も聞きたいな、君の甘い言葉」

「――!?」

 彼を見上げると、こちらに注がれる瞳は悪戯な色に輝いていて、私を離してはくれなかった。
 
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