幼なじみのユウくんは、私を抱かない。

1.幼なじみのユウくん

「遅いなー」

幼なじみのユウくんにメッセージを送った私は、スマホを握って返事を待っていた。

いつもはすぐ返信が来るのに、今日は既読にすらならない。

「いないのかな……」

でも遊びに行くなんて聞いてない。

「行ってみよ。」

私はユウくんのマンションへ向かった。

マンションの入り口を開けて、階段を上がっていくと向いから華やかな美人のお姉さんが歩いてきた。

(うわ……)

すれ違い様に、薔薇みたいな香りがぼわっと来て、私は思わず目を泳がせた。

(なんか廊下が花畑みたいになってるし……)

お姉さんの残り香が廊下に漂っている。

どんな生活をしていたらあんな美人になれるのだろうか。そんなことを思いながら、私はユウくんの部屋のインターホンを押した。

「あれ、イチカ?」

ユウくんは眠そうな顔で玄関の扉を開いた。

「もしかして連絡くれてた?」
「したよー。なんで返信くれないの?」
「あー、ちょっと忙しくてさ。」

私は自分の部屋のようにユウくんの部屋に上がり込んだ。

(え……)

そのまま黒いソファーにどすんと座るのがいつもの流れなのに、私の足はピタリと止まった。

「どうした?」
「ううん、なんでもない。」

ユウくんの部屋は、さっきのお姉さんと同じ匂いがする。

女の方が嗅覚が鋭いって聞いたことがあるけど、こういう時は不便だと思う。嗅覚が鈍感なら気づかなかったのに。

かつて、ユウくんからそういう相手がいると聞いたことがある。だから、私でもできるのかなんて聞いて、ユウくんを挑発してしまった。

ユウくんに押し倒されて怖かったし、そういう関係になったら、友達ではいられなくなることもわかった。ユウくんはそれを教えてくれた。

「イチカはちゃんと好きな人とした方がいい。」
「無駄にしたら傷つく。」
「そのうち王子様が来る。」

ユウくんはそう言ってくれた。だから、私は待つことにした。彼氏作らなきゃって焦ってたけど、本当に好きになる人ができるかもしれないって思って待ってる。

(それなのに、ユウくんは……)

自分を無駄にしてない?
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