ひと夏の経験、五つの誘惑
「ほら、帰るぞ、水橋。」
答案用紙とノートをまとめながら声をかけると、神奈は机から立ち上がり、俺のそばに歩み寄ってきた。
ふと視線を落とすと、シャツの端を小さな指でつまんでいる。
「ねえ、先生。お願いがあるの。」
「お願い? 何だ。」
どうせ車で送れとか、ジュースおごれとか、そんな軽いことだろうと思っていた。
けれど、次に返ってきた言葉に、心臓が跳ね上がる。
「……H、してみたいの。」
胸の奥でドクンと大きな音が鳴った。
冗談かと思ったが、神奈の瞳はまっすぐで、笑っていなかった。
こう言っちゃあ何だが、神奈は目が大きくて、くりっとした顔立ちの可愛いタイプだ。
明るく気さくで、男子からも人気がある。
そんな女の子が――よりにもよって俺に?
一瞬、頭の中が真っ白になる。教師としては、絶対に踏み込んではいけない領域。
だが、シャツの端をつまむ指先の温もりが、妙に離れがたく感じられた。
答案用紙とノートをまとめながら声をかけると、神奈は机から立ち上がり、俺のそばに歩み寄ってきた。
ふと視線を落とすと、シャツの端を小さな指でつまんでいる。
「ねえ、先生。お願いがあるの。」
「お願い? 何だ。」
どうせ車で送れとか、ジュースおごれとか、そんな軽いことだろうと思っていた。
けれど、次に返ってきた言葉に、心臓が跳ね上がる。
「……H、してみたいの。」
胸の奥でドクンと大きな音が鳴った。
冗談かと思ったが、神奈の瞳はまっすぐで、笑っていなかった。
こう言っちゃあ何だが、神奈は目が大きくて、くりっとした顔立ちの可愛いタイプだ。
明るく気さくで、男子からも人気がある。
そんな女の子が――よりにもよって俺に?
一瞬、頭の中が真っ白になる。教師としては、絶対に踏み込んではいけない領域。
だが、シャツの端をつまむ指先の温もりが、妙に離れがたく感じられた。