憧れの専務は私の恋人⁉︎
翌日はものすごく忙しかった。展示会で専務が大量の仮契約を結んだため仕事が増えているし、奈々美もまだ休んでいる。いつも以上に頑張らなければいけないのに、私はずっと上の空だった。
(どうしよう!絶対呼び出される……!)
眠ってしまった専務を居酒屋から連れ出すため、私は専務の秘書を名乗って系列のホテルに電話をかけた。遅い時間だったけれど、専務の名前を言ったら部屋を押さえてくれた。しかも、酔っていて歩けないことを伝えるとホテルマンが居酒屋まで迎えに来てくれたのだ。
専務を放置しないで済んだことはよかったけれど、勝手に専務の秘書を名乗り、ホテルを予約してホテルマンに引き渡したことは、ただの平社員がやっていいことではない。何らかの処分は免れないと思う。
(解雇は嫌だな……せめて商品が発売されるまでは待って欲しい!)
何度目かわからないため息をついた時、自席の内線が鳴った。
「はい、早川です…………わかりました。すぐ行きます……」
本物の専務の秘書、中川さんからの呼び出しだ。私は手に汗を握って専務の執務室へ向かった。
(あぁ、やだ……行きたくない!)
いつもは専務に会えれば元気が出るけれど、今日は会いたくない。勇気が出ずに役員フロアをウロウロしていると、執務室の扉が開いて専務に手招きされた。
「早川さん、早く!」
専務に呼ばれて恐る恐る足を踏み入れると、専務は90度に頭を下げた。
「昨日は本当に申し訳なかった!」
「えっと……だ、大丈夫ですよ。はは。」
こういう時に、何と言うのが正解なのかわからない。
「早川さんが機転を効かせてくれなかったら、俺はあのお店を出禁になっていた。本当にありがとう!」
「いえ……あの、私も勝手に色々やってしまいまして……」
「気にしなくていい。寝てしまった俺が悪いんだから。」
どうやら解雇は免れたようだ。
「ただ、代わりと言ってはなんだけど……また婚約者のふりをお願いしたいんだ。父の関係の人で、断れなくてさ。」
「またですか!?」
「こんなこと頼めるの早川さんしかいないんだよ。」
専務の相手となる人だから、お見合い相手はそれなりの立場の人だろう。気を使うし緊張もする。だけど、専務の力になれるならと思ってしまう。
「わ、私で良ければ……」
「ありがとう!」
専務の顔がぱあっと明るくなった。昨日から私は専務の知らなかった顔をたくさん見ている気がする。
「早速なんだけど、今週の土曜日空いてる?」
「大丈夫です。」
「連絡先を教えて。詳細が決まったら教えるから。」
「わかりました。」
連絡先を交換するのは、婚約者のふりをするために必要なこと。それはわかっているけど、ドキドキした。
「それとさ、どうして一緒に来てくれなかったの?朝起きて、早川さんがいなくて寂しかったな。」
「っ……!?」
息を呑むと、何かを企んでいるような顔でこちらを見ている専務が目に入った。私の反応を見て楽しんでいるに違いない。
「それはセクハラですっ!」
「わかってるよ。だから言う相手をちゃんと選んでる。早川さんは俺のことが好きでしょ?」
徐々に顔が熱くなってきて何も言えずにいると、専務はふっと笑った。
「相手の感情を読むのは得意なんだ。職業柄ね。」
だからあんなに容易く契約を取ってしまうのだ。仕事の時は心強いけれど、プライベートでは至極厄介だ。
「お酒を飲んでいなくても、そういうことを仰るのですね。」
「これが普段の俺だよ。優しくしたり、笑顔を振りまいてるのは仕事の俺。」
憧れの専務は仮面をかぶった姿なのかもしれない。なんだか騙されたみたいな気分だ。
「婚約者のふり……してくれるよね?」
「……」
「君に断る権利はないよ。勝手に秘書を名乗ったことを公にしたら……」
「パワハラじゃないですか!」
「好きな相手の気を引くためには、少々強引な手を使うこともやむを得ない。言ったでしょ?俺は早川さんみたいな人がいいって。」
「覚えているんですか!?」
「酔っていたけど記憶がないわけじゃない。多少饒舌だったかもしれないけどね。」
「意地悪なんですね。本当の専務は。」
憧れていた専務の仮面が剥がれて、中にいた悪い専務が出てきたみたいだ。こんな感じだから、見た目も肩書きも良いのに独り身なんだ!
「好きな人には意地悪したくなるものなの。土曜日、来てくれるよね?」
「……」
「終わったら、美味しいもの食べに行こう?」
「えっ……(いいんですか!?)」
専務はくすくす笑っている。いつもの食い意地のせいで私の目はキラッキラに輝いていたことだろう。
(あー!悔しい!)
今までの私だったら婚約者のふりをすることを手放しで喜んでいたはずだ。でも、専務の正体を知った今はなんだか納得がいかない。ただ、専務の楽しそうな笑顔はいつまでも頭に残って離れなかった。
(どうしよう!絶対呼び出される……!)
眠ってしまった専務を居酒屋から連れ出すため、私は専務の秘書を名乗って系列のホテルに電話をかけた。遅い時間だったけれど、専務の名前を言ったら部屋を押さえてくれた。しかも、酔っていて歩けないことを伝えるとホテルマンが居酒屋まで迎えに来てくれたのだ。
専務を放置しないで済んだことはよかったけれど、勝手に専務の秘書を名乗り、ホテルを予約してホテルマンに引き渡したことは、ただの平社員がやっていいことではない。何らかの処分は免れないと思う。
(解雇は嫌だな……せめて商品が発売されるまでは待って欲しい!)
何度目かわからないため息をついた時、自席の内線が鳴った。
「はい、早川です…………わかりました。すぐ行きます……」
本物の専務の秘書、中川さんからの呼び出しだ。私は手に汗を握って専務の執務室へ向かった。
(あぁ、やだ……行きたくない!)
いつもは専務に会えれば元気が出るけれど、今日は会いたくない。勇気が出ずに役員フロアをウロウロしていると、執務室の扉が開いて専務に手招きされた。
「早川さん、早く!」
専務に呼ばれて恐る恐る足を踏み入れると、専務は90度に頭を下げた。
「昨日は本当に申し訳なかった!」
「えっと……だ、大丈夫ですよ。はは。」
こういう時に、何と言うのが正解なのかわからない。
「早川さんが機転を効かせてくれなかったら、俺はあのお店を出禁になっていた。本当にありがとう!」
「いえ……あの、私も勝手に色々やってしまいまして……」
「気にしなくていい。寝てしまった俺が悪いんだから。」
どうやら解雇は免れたようだ。
「ただ、代わりと言ってはなんだけど……また婚約者のふりをお願いしたいんだ。父の関係の人で、断れなくてさ。」
「またですか!?」
「こんなこと頼めるの早川さんしかいないんだよ。」
専務の相手となる人だから、お見合い相手はそれなりの立場の人だろう。気を使うし緊張もする。だけど、専務の力になれるならと思ってしまう。
「わ、私で良ければ……」
「ありがとう!」
専務の顔がぱあっと明るくなった。昨日から私は専務の知らなかった顔をたくさん見ている気がする。
「早速なんだけど、今週の土曜日空いてる?」
「大丈夫です。」
「連絡先を教えて。詳細が決まったら教えるから。」
「わかりました。」
連絡先を交換するのは、婚約者のふりをするために必要なこと。それはわかっているけど、ドキドキした。
「それとさ、どうして一緒に来てくれなかったの?朝起きて、早川さんがいなくて寂しかったな。」
「っ……!?」
息を呑むと、何かを企んでいるような顔でこちらを見ている専務が目に入った。私の反応を見て楽しんでいるに違いない。
「それはセクハラですっ!」
「わかってるよ。だから言う相手をちゃんと選んでる。早川さんは俺のことが好きでしょ?」
徐々に顔が熱くなってきて何も言えずにいると、専務はふっと笑った。
「相手の感情を読むのは得意なんだ。職業柄ね。」
だからあんなに容易く契約を取ってしまうのだ。仕事の時は心強いけれど、プライベートでは至極厄介だ。
「お酒を飲んでいなくても、そういうことを仰るのですね。」
「これが普段の俺だよ。優しくしたり、笑顔を振りまいてるのは仕事の俺。」
憧れの専務は仮面をかぶった姿なのかもしれない。なんだか騙されたみたいな気分だ。
「婚約者のふり……してくれるよね?」
「……」
「君に断る権利はないよ。勝手に秘書を名乗ったことを公にしたら……」
「パワハラじゃないですか!」
「好きな相手の気を引くためには、少々強引な手を使うこともやむを得ない。言ったでしょ?俺は早川さんみたいな人がいいって。」
「覚えているんですか!?」
「酔っていたけど記憶がないわけじゃない。多少饒舌だったかもしれないけどね。」
「意地悪なんですね。本当の専務は。」
憧れていた専務の仮面が剥がれて、中にいた悪い専務が出てきたみたいだ。こんな感じだから、見た目も肩書きも良いのに独り身なんだ!
「好きな人には意地悪したくなるものなの。土曜日、来てくれるよね?」
「……」
「終わったら、美味しいもの食べに行こう?」
「えっ……(いいんですか!?)」
専務はくすくす笑っている。いつもの食い意地のせいで私の目はキラッキラに輝いていたことだろう。
(あー!悔しい!)
今までの私だったら婚約者のふりをすることを手放しで喜んでいたはずだ。でも、専務の正体を知った今はなんだか納得がいかない。ただ、専務の楽しそうな笑顔はいつまでも頭に残って離れなかった。