君の好きな人になりたかっただけ
「そろそろ病院戻らないと」

「え、あ、ちょ…」


原麻里香ちゃんにわかれを告げる暇も与えてくれなかった尚人は、そのまま私を引っ張って歩いて行く。


「ちょっと、尚人!どうしたの?」


呼びかけると、やっと尚人は立ち止まってくれた。


「…何か、思い出した?」

「え…?いや、何も…」


本当は黄色いチューリップの話をしたことを思い出したけど、なんとなく言ったらいけない気がして口をつぐむ。


「…そうか」

「尚人は、私に記憶を思い出してほしくないの?」


ずっと不思議だった。

どうして尚人は過去の話を聞くと苦しそうな顔をするのか。

私との思い出を自分だけが覚えていることが苦しいんだと最初は思っていたけど、私が思い出そうとするとやんわりと制してきた。

それはまるで、私に思い出してほしくないと思っているかのように。
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