君の好きな人になりたかっただけ
その現実が一気に重くのしかかってきて、やっと私は直樹を失ったことを理解する。

しおりを握りしめたまま泣きじゃくる私の手に、そっと尚人が自分の手を重ねてきた。


「花楓が苦しむくらいなら、兄貴のことは思い出さないでほしいと思ってた。…だけど、そんなの間違ってるよな。兄貴を好きだっていう気持ちまでなかったことにするなんて、そんなの間違ってる。兄貴がいたから俺の恋は報われなかった。それでいいんだ。兄貴を想って想われてる時の花楓は世界で一番幸せそうな顔をして笑ってたから」


…全部思い出したよ。

優しい笑顔も、笑うとできるえくぼも、可愛いねって恥ずかしがらずに褒めてくれるところも、私を大切に触る手も、真っ直ぐに見つめてくる熱い眼差しも、全部が愛おしかったこと。

たしかに、直樹を失ったことを忘れて生きていく方が私は幸せだったのかもしれない。

何も知らずに、私を大切に想ってくれる人の隣で笑っている方が苦しくて悲しみに潰されそうになることもなかったのかもしれない。

だけど…。


「ありがとう、尚人。私のそばにいてくれて。でもね私は、直樹のこと何一つも忘れたくない。一緒に生きていた時間、想って想われていた時間、一分一秒も忘れたくないの。直樹の好きな人になれて、私はもう一生分の幸せをもらったから。今までもこれからもずっと、直樹が私の好きな人だから」

「…ああ」


直樹のことを好きなこの気持ちだけは、どう足掻いても消せない。消したくない。

だからこそ、勿忘草が私の記憶を呼び戻してくれたのかもしれない。

これからも一生直樹をなくした罪を背負って私は生きていく。

直樹の分も、ずっと。

そしていつかまた会えた時に、「忘れなかったよ」と言えるように直樹のことをずっとずっと覚えているよ…。
< 22 / 22 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:5

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

君に何度でも××をあげる
杏柚/著

総文字数/5,560

恋愛(純愛)14ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
14歳の春、私は一生忘れられない君と出会い、恋をした。 ◇ 初恋もまだなピュアで明るい天然ヒロイン 日比野 姫咲(Hibino Kisaki) × チャラくて遊び人な裏で何かを抱えているヒーロー 渡良瀬 湊翔(Watarase Minato) ◇ 「可愛いね」 第一印象は、チャラくて最悪で最低な人だと、そう思っていた。 だけど…。 「俺以外にそんな顔見せないで」 「そばにいてよ」 「愛おしいってこういうことなんだね」 君と関わるうちに、私は知らない感情をたくさん知った。 君からたくさんの幸せをもらった。 だからね、君が抱えているものも私にわけてほしいの。 君がくれた幸せを、私も返したいから–––。
君がくれた涙は、さよならのために
杏柚/著

総文字数/5,892

恋愛(純愛)13ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
–––この夜が終わるまでは、まだ君といられる。 ◇ ◆ ◇ ある過去から泣けなくなってしまった少女 瀬川 凛々花(Segawa Ririka) × 寂しい孤独から笑わなくなってしまった少年 氷川 蓮(Hikawa Ren) ◇ ◆ ◇ 二人が出会ったのは、偶然で必然だった。 「…俺に構うんじゃねぇよ」 「ほっておけないよ」 二人の距離は少しずつ、欠けていた月が満ちていくように少しずつ近づいていた。 彼となら、お互いの傷に寄り添え合えると、そう思っていたのに…。 「俺はもうここにいられない」 私の世界から突然、君はいなくなってしまった。
この恋の終わらせ方を、私はまだ知らない。
杏柚/著

総文字数/2,608

恋愛(純愛)1ページ

スターツ出版小説投稿サイト合同企画「第2回1話だけ大賞」ベリーズカフェ会場エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
「電車、止まっちゃいましたね」 それが、いつも同じ時間、同じ場所にいるだけの 名前も知らない私たちの初めての会話だった…。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop