君の好きな人になりたかっただけ
記憶の欠片
目を覚ましてから、一週間が経った。

リハビリを繰り返す毎日で、記憶を取り戻すために脳トレーニングもしているのに思い出せることは一つもなかった。


「花楓。おまえの好きなプリン、買ってきてやったぞ」

「わー!ありがとう、尚人」


この一週間、尚人はかかさず毎日私のお見舞いに来てくれていた。

一週間も経てば記憶がなくても尚人との距離感もわかってきて、彼氏彼女らしいことはできていないけどそれでも隣にいることが当たり前となっていた。

きっと昔から私の隣に尚人がいることが当たり前だったからなんだろう。


「美味しい〜!駅前のプリン屋さんなんだっけ?記憶はないけど、ここのプリンが世界で一番好きだったっていうのはなんとなく体でわかる気がするなー」

「そうか」


優しく微笑みながら口の端についたプリンを尚人が親指で拭ってくれた。


「あ、ありがと…」

「ん」


尚人が私を見つめる視線はとても優しくすごく愛されていることがひしひしと伝わってきて、これに関しては初めての感覚でむず痒くて恥ずかしかった。
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