美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
「香坂さん?そこ、何か気になりましたか?」

優子が書類を見ながら熟考していると思ったようだ。

「!!ごめん、ちょっとぼーっとしちゃった」

八木はふふっと笑い、廊下に目をやった。

「それにしてもさっきから、みんなものすごく覗いてません?」
「うん。八木君もそう思った?」
「はい。見られてる感じが半端ないです。
美人で有名な香坂さんと一緒にいるなんてラッキーな奴は誰だ?!みたいな感じですかね」
「いやいや、子犬君といるのは誰だ?!でしょ?」
「子犬くん?」

八木は眉毛をぴくっと動かした。

「もしかして、子犬君って僕のことですか?!」

(やばい、つい口に出てしまった!大人の男性に子犬とか失礼よね。怒ったかしら?)

焦る優子を八木は見つめている。

「えっと、、、、(やばい、やっぱり怒らした・・・よね。ああ、もう、謝ろう!)はい!すみませんでした!」

優子はがばっと頭を下げた。すると八木は

「わんっ!」
と大きな声で吠えた。

優子がびっくりして頭を上げると、八木は面白そうに笑っていた。
あっけにとられていると、

「ははは。そんなに怯えなくても怒りませんよ。
俺、女性社員から『子犬』って呼ばれてるの知ってますし」
「え?知ってたの?」

八木は肘をつき少し前かがみになった。そして少し目を細め、声を小さくして

「子犬だと思っていたら大型犬の間違いだったかもしれませんよ。
香坂さん、気を付けてくださいね」

と言った。
その表情は今までのふざけた感じと違い、囁きに甘い色気を感じるものだった。
優子は思わずごくっと唾を飲み込んでしまった。

「は、はい」
「しかも、香坂さんの前では()になったりもしますよ」

八木にじっと見つめられて、優子は更にドキッとした。
早くうつ自分の鼓動に驚きつつも、平静を装って微笑んでみせる。

「そ、そりゃ恐いね、気を付けなきゃ」

自称『大人の余裕笑顔』である。心臓がバックバクなのを必死に取り繕う。
八木は色気顔から一転し、目を大きく開いた。

「あ!信じてないー!」
「いやいや、だって狼って…警戒でもしてほしいの?」
「そーゆーわけではないんですけどー」

今度はふてくされて天井を見ながらぶつぶつ言ってる八木君は何かを閃いて、優子に不敵な笑みを浮かべた。

「それじゃ、ドーベルマンで」
「は!?‥‥ふっ、ふっ・・・ふわっははははははははははは!」

優子はお腹を抱えて笑った!!

「え?なんで?笑いうとこ?
今、かっこよく言ったつもりなんですけど」

あたふたする八木にさらに笑えてくる。

「あはははははははははは”! くるしー!!ははははははは!」
「もう!香坂さん! 男心がわかってない!!」
「はははは、おと、おと、ふふ、男心って、ふっ、警備しますって?
警備しても犬だから! せめて人間になってよ!
ふははははははははは!」

笑いが止まらない優子を複雑な表情で見ていた八木は我慢できなくなったのか、吹き出し、一緒に笑いだすのだった。

コロコロ表情の変わる八木が「子犬くん」と表される理由が少しわかった気がした。
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