美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
それから温めなおされた料理を食べながらいろんな話をした。

子供のときの香坂さんの話。
俺の子供のころの話。
新人研修の時の話。
仕事の話。
たくさん話をして、ふと時計を見ると、日付が変わろうとしていた。

「俺、そろそろ失礼します」
「そうか。もう遅いし、送ろう」
と言って立ち上がろうとする口田課長を止めた。

「まだ電車あるんで、大丈夫です。
それより香坂さんについていてあげてください。 俺、ここにいても邪魔っぽいですし」

「まあ、ここにいてもすることはないよな」
と頷いた課長は、
「八木。今日は優子の側にいてくれて助かった。 ありがとう」
と頭をさげた。

「いえ。俺の方こそ昼間、失礼なことしてすみませんでした」
「ああ。医務室で俺に殴りかかってきたこたか?」
「あれは本当に申し訳なかったと反省しております」
俺は深々と頭を下げた。

口田課長はにやりと笑った。
「俺、こう見えて人事課長だよ?とばせちゃうよ?わかってるだろ?」
「はい。わかってます」

課長はぶんぶんと手を振った。
「はははっこんなことで飛ばしたりしないよ。
それに本気で優子のことを心配してとった行動だと思うから怒ってもない。
まあ、後先考えずに行動するのはどうかと思うけどね」
「はい」
「でも…」
「?」
「だからこそ八木が信頼できた。
八木が優子のためなら人事課長に喧嘩売るくらい、優子を好きなんだと思ったから、うちに連れてきたんだ」
「……」
「まあ、さっきもいったけどさ、ここから先はどうするかは八木が決めてくれ。
このままお前が離れても優子の側には俺がいるから気にすることはないよ」
「……」
「なあ。ホントに送らなくていいのか?」
「大丈夫ですって。意外とかなりの心配性ですね」
「うるせぇ」

挨拶してマンションを出た。
マンションの下まで見送りに来た課長に、ああ、この人は根っからのお兄ちゃん気質なんだと笑ってしまった。





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