美人の香坂さん、酒は強いが恋愛は最弱
【side 八木俊樹】

笑い疲れた俺たちはご飯を食べに行くことにした。
「何食べたいですか?」
「何でもいいよ」
この二日、食欲がないみたいだったよな。
香坂さんは肉好きだけど、今日は軽いものとかあっさりした方がいいかもしれないよな。
どっちでも行けるように裏の定食屋がいいかな。

「裏の定食屋、どうですか?」
「うん」

二人でおしゃべりをしながら店に向かう。
香坂さんは途中ですれ違う人に話しかけられていた。

「あ、香坂さん。お疲れー」
「お疲れ様です」
「口田と付き合ってないんだって?今度飲みに行こうよ」
「企画部の飲み会ならいいですよ」

「香坂さんこれから昼飯?俺も一緒していい?」
「すみません。打ち合わせなんです」

「香坂さん、デートしよ」
「しません」

香坂さんは通りすがりに話しかける男性社員に片っ端から断って行く。
俺との会話の合間にぱっぱとフっていく。

「香坂さん、バッサバッサと断るんですね」
「亮太郎に仕込まれたからね。
逆に女の子からの誘いは断るのが難しくて」
「そうなんですね」

香坂さん、気付いてるかな? 前から俺の誘いは断ってないだよ。
一緒にご飯を食べに行けて、こうやって隣で並んで歩けて、俺、ものすごく嬉しかったんだよ。
大きな口を開けて笑う香坂さんは、横に立つ俺を見上げた。
目が合って楽しそうにまた前を向く。
肩が触れそうで触れない距離。

真昼間から、会社で抱きしめたくなってくる。
これは、本格的に『馬鹿ヤギ』かもしれない。

でも・・・。
香坂優子は俺の彼女だ――ー―!!と叫びたい。

入社してからずっと好きだった。
長かった片想い。
俺の存在すら知られることのない片想い。
やっと香坂さんの隣に立つことができた。
認知された。
そして、恋人同士になれた。

髪を耳にかけるのを見おろしながら、やっぱり綺麗だなと思った。
「ん?」
俺の視線に気が付いた香坂さんが、小首を傾けるから、背中を丸めて耳元に顔を寄せる。
こっそりと、小さな声で、
「好きだよ」
と言うと、香坂さんは顔を赤くした。

かわいいっ!!!!!



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