亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 ルーチェに預けていた身体を動かすと、隣で眠っているルーチェの身体がヴィルジールへと傾いた。

 ヴィルジールは反射的にその身体を抱き止め、自分の膝の上に頭を乗せてやった。しかし、そこからどうしたらいいのか分からない。

 すやすやと眠るルーチェは、いい夢でも見ているのか、とても安らかな顔をしている。

 ヴィルジールはルーチェの寝顔を見下ろしながら、ゆっくりと息を吐ききった。

 白銀色に染まったルーチェの髪が、風に揺られている。艶やかなそれに指を絡ませてみると、思った通りの感触だった。

 滑らかで、柔らかい。ならばこちらはどうだろうか──と、ヴィルジールは顔へと手を伸ばす。
 だがその手前で、ぴたりと手を止めた。

(……俺は今、何を?)

 ヴィルジールはルーチェの顔の上に翳した手をすぐに引っ込め、代わりに自分の前髪を掻き上げた。乱れた前髪をエヴァンが見たら、来客があると伝えたのに──と、怒るに違いないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 なぜ、この指先はルーチェの髪を掬い、さらに頬にまで触れようとしていたのか。

 ヴィルジールは暫くの間、自分の手をじっと見つめていたが、ルーチェがもぞもぞと動いたので、慌てて手袋を嵌めた。
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