亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「ならば急ぎましょうか。……陛下の執務室に置き去りにされている聖女様のことが気がかりですが」
「聖女様がおられるのですか?」
エヴァンは笑って頷く。
「ええ、おられますよ。陛下の執務室に」
「エヴァン。さっきから貴様は何が言いたいんだ」
ヴィルジールがため息をひとつ吐いてから、執務室の扉を閉める。いつの間に手配していたのか、聖女付きの侍女であるセルカとソレイユ宮の使用人であるイデルが目の先に立っていた。
目が合うと、二人は手を重ねながら深々と頭を下げる。
「おやおや、密室でふたりきり……ではなく置き去りでなくてよかったです」
ぞわ、と。震えるほどの冷気を感じたので、エヴァンは即座にヴィルジールから距離を取った。そうしたところで、ヴィルジールの視界に入っている限り、彼の氷の魔法から逃れられないことは分かっているが。
だが、今日はセシルがいる。ヴィルジールを心の底から慕い、兄のヴィルジールからも可愛がられているセシルがいるならば、迂闊に魔法を使わないだろう、と。
だから戯れたのだが──意外なことに、ヴィルジールは何もしてこなかった。その深い青色の目は、俯いているセシルへと向けられている。
「……どうした、セシル」
ヴィルジールの声でセシルは顔を上げる。
「その聖女様は、何者ですか?」
「イージスの聖女だ。倒れていたところを保護した」
「セントローズ公爵がお連れになったのも、イージス神聖王国の聖女様です」
ヴィルジールは弾かれたように執務室を振り返り、右の手のひらを握りしめた。
「聖女様がおられるのですか?」
エヴァンは笑って頷く。
「ええ、おられますよ。陛下の執務室に」
「エヴァン。さっきから貴様は何が言いたいんだ」
ヴィルジールがため息をひとつ吐いてから、執務室の扉を閉める。いつの間に手配していたのか、聖女付きの侍女であるセルカとソレイユ宮の使用人であるイデルが目の先に立っていた。
目が合うと、二人は手を重ねながら深々と頭を下げる。
「おやおや、密室でふたりきり……ではなく置き去りでなくてよかったです」
ぞわ、と。震えるほどの冷気を感じたので、エヴァンは即座にヴィルジールから距離を取った。そうしたところで、ヴィルジールの視界に入っている限り、彼の氷の魔法から逃れられないことは分かっているが。
だが、今日はセシルがいる。ヴィルジールを心の底から慕い、兄のヴィルジールからも可愛がられているセシルがいるならば、迂闊に魔法を使わないだろう、と。
だから戯れたのだが──意外なことに、ヴィルジールは何もしてこなかった。その深い青色の目は、俯いているセシルへと向けられている。
「……どうした、セシル」
ヴィルジールの声でセシルは顔を上げる。
「その聖女様は、何者ですか?」
「イージスの聖女だ。倒れていたところを保護した」
「セントローズ公爵がお連れになったのも、イージス神聖王国の聖女様です」
ヴィルジールは弾かれたように執務室を振り返り、右の手のひらを握りしめた。