亡国の聖女は氷帝に溺愛される
灯る熱
セントローズ公爵。世間ではそう呼ばれている男は、オヴリヴィオ帝国の西の国境地帯を治めている。
広大な領地と強固な軍を有しており、その身分は公爵──王族に次ぐ地位だ。その娘はヴィルジールの父親に嫁ぎ、王子も姫君も産んだ功労者であるが、十年前に殺されている。
現皇帝である、ヴィルジールの手によって。
「──面をあげよ」
冴え冴えとしたヴィルジールの声で、セントローズ公爵──アゼフ・セントローズは顔を上げた。齢六十を過ぎており、もう高齢ではあるが、そう感じさせない風貌の持ち主だ。
「お目にかかれて光栄でございます。皇帝陛下」
「用件は何だ?」
「恐れ多くも、皇帝陛下にお目にかけたい者がおりまして。本日はその者をここに連れてきました」
アゼフは片膝をついたまま背後を見遣る。彼の斜め後ろには白いローブを羽織る少女が、彼に倣うように頭を垂れていた。
「さあ、ご挨拶を」
アゼフの言葉に頷いてから、少女はゆったりとした動きでフードを下ろした。
黄金の色の長い髪がこぼれ、美しい純白のドレスを撫でるように揺れる。雪のように白い肌に、菫の花を思わせる瞳。艶やかな桃色の唇は、春に実る果実のようだ。
目と目が合った瞬間、ヴィルジールは頭の奥で痛みを感じた。
広大な領地と強固な軍を有しており、その身分は公爵──王族に次ぐ地位だ。その娘はヴィルジールの父親に嫁ぎ、王子も姫君も産んだ功労者であるが、十年前に殺されている。
現皇帝である、ヴィルジールの手によって。
「──面をあげよ」
冴え冴えとしたヴィルジールの声で、セントローズ公爵──アゼフ・セントローズは顔を上げた。齢六十を過ぎており、もう高齢ではあるが、そう感じさせない風貌の持ち主だ。
「お目にかかれて光栄でございます。皇帝陛下」
「用件は何だ?」
「恐れ多くも、皇帝陛下にお目にかけたい者がおりまして。本日はその者をここに連れてきました」
アゼフは片膝をついたまま背後を見遣る。彼の斜め後ろには白いローブを羽織る少女が、彼に倣うように頭を垂れていた。
「さあ、ご挨拶を」
アゼフの言葉に頷いてから、少女はゆったりとした動きでフードを下ろした。
黄金の色の長い髪がこぼれ、美しい純白のドレスを撫でるように揺れる。雪のように白い肌に、菫の花を思わせる瞳。艶やかな桃色の唇は、春に実る果実のようだ。
目と目が合った瞬間、ヴィルジールは頭の奥で痛みを感じた。