亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 ルーチェが答えを見つけたと分かったのか、セルカが静かに微笑む。

「陛下がこちらに運ばれたのです。先ほど来客があり、仕事に戻られましたが」

「そう……なのですね」

 ルーチェはセルカの手を借りてソファから立ち上がった。

 イデルが先導するように歩き出し、その後ろについて部屋を出る。だが外に出たところで、一本の糸がピンと張るような感覚がルーチェの足を縫い止めた。

「ルーチェ様?」

 イデルが心配そうに声を掛けてきたが、ルーチェは返事をせずに後ろを振り返った。

 今はまだ、そこにはいない。だが、そこに現れるという確信がある。

「……ヴィルジールさま?」

 突然足を止めるなり逆側を向いたルーチェを見て、迎えにきてくれたセルカとイデルは不思議に思ったことだろう。

「ルーチェ様、陛下がどうかなさったのですか?」

 セルカがいつもの調子で問いかけ、ルーチェの前に回ってくる。

「……ごめんなさい」

 ルーチェはひと言だけ吐いて、床から足を剥がして駆け出した。
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