亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「ならばわたくしを殺してごらんなさい! 聖王の加護を持つ者に、聖女の命を奪うことなど出来ないのよ!」

 ノエルの瞳の色が濃くなる。確かめるように手元を見ると、レイチェルに突きつけた剣が震えていた。

「……そういうことか」

 ノエルは剣を下ろすと、今度は全身に光を纏わせた。ルーチェを背に庇うようにして間に立ち、目も眩むような光を身体から発する。

「確かにあんたは、イージス神聖王国の聖女だね」

「……え」

 思わず吐いて出たルーチェの声に、ノエルは勝気な微笑みで応えた。大丈夫だと、伝えるように。

「だけど、それは今じゃない。──レイチェル、あんたは何代か前の聖女だね?」

「だとしたら?」

 肩で息をしながら、レイチェルは歪んだ笑みを向ける。

 ノエルは右の手のひらをぎゅっと握りしめると、感傷に浸るように目を閉じた。

「あんたからはイージスの聖女と同じ、あの光が感じられるけど──その身体からは、まがい物の匂いがするよ。嫌な臭いで、吐きそうだ」

 ノエルのその言葉が、真実なのだろうか。

 レイチェルの美しい顔から表情が消え、赤い唇がわなわなと震えた。その一瞬、その瞬間。ルーチェを縛りつけていた光の鎖が、粉々に砕け散った。
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