亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「──どうやら貴女も聖女みたいだね」

「──ええ、そうよ。わたくしはイージス神聖王国の聖女」

「──ふうん。レイチェルなんて名前、聞いたこともなければ、神殿で見たこともないけど?」

 黒い槍と光の剣が交わり、幾度も金属音が響き渡る。

 少女──レイチェルはルーチェからノエルへと標的を変えたのか──或いは変えざるを得なかったのか、ふたりは激しい戦闘を繰り広げている。

「聖女はわたくしよ!」

 月明かりの下、土埃を舞い上げながら、レイチェルが槍を振り下ろす。

 ノエルはレイチェルの攻撃を軽く受け止め、受け流し、弾き返した。そして体勢を崩したレイチェルの首元に剣を突きつけると、殺気を含んだ視線で睨みつけた。

「これ以上僕を怒らせたら、殺すよ」

「それはわたくしの──」

「イージス神聖王国の聖女はあんたなんかじゃない。聖王様と運命で結ばれている、ルーチェだけだ」

 恐ろしく冷たい声音だ。ノエルがそんな風に話すのを、ルーチェは初めて目にする。

 静かながら、明らかに怒気の滲んだ顔つきに、レイチェルは怯えていたように見えた。

 だが彼女は高らかに笑い出した。
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