亡国の聖女は氷帝に溺愛される


 匂いが強くなった。ひとつの国が喪われるきっかけとなった、あの炎の臭いが。

 夜の空を切る勢いで翔んできたルーチェは、背にぴったりと寄り添う銀色の翼のぬくもりに背中を押されるようにして、高度を下げていった。

 ルーチェが来ることを分かっていたのか、黄金色の体躯が眩しい光を放ちながら近づいてくる。不気味な紅い瞳の奥からは、ファルシの存在を感じた。

 取り込まれてしまったのか、呑み込まれているだけなのかは分からない。だが、ファルシと自分を繋ぐ光はまだ失われてはいない。

 竜は大きく啼いた。

「(──やはり来たか)」

「……儀式の、竜」

 鋼のような鱗に覆われている黄金の巨躯が、ルーチェの間近までやって来る。

 竜は二つの目でルーチェを捉えると、大きな尾を建物に打ちつけた。

 ヴィルジールと共に歩いた道が割れ、共に見上げた時計塔も崩れ、ばらばらと瓦礫の山を作っていく。人々が時間をかけて造りあげたものを、目の前にいる竜は息をするように壊していく。

 憤りを感じたルーチェは、ぎゅっと唇を引き結んだ。
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