亡国の聖女は氷帝に溺愛される
 楽団がワルツを奏でると同時に、ルーチェの腰にヴィルジールの手が添えられ、ふわりとドレスが持ち上がる。足の動かし方すら分からないというのに、自然と身体が動くのは、ヴィルジールのエスコートが上手いからなのだろう。

(──きっと、たくさんの方と踊られてきたのね)

 慣れたようにステップを踏みながら、ルーチェをリードし続けているヴィルジールは、数多の女性を相手にしてきたに違いない。

 見上げると、ヴィルジールの顔が間近に迫っていた。

「新しい部屋は気に入ったか」

「私には勿体ないくらいです」

「何かあれば言うといい。あの老夫婦は気のいい奴らだから」

 ヴィルジールは表情を緩めると、強引なリードでルーチェをくるくると回した。曲調的にターンをする場面なのは察したが、ステップの踏み方さえ分からないルーチェは、ヴィルジールにされるがままだ。

 四回転目を終えようとした時、ルーチェの片足が一瞬、宙に浮いた。ぐらりと視界が動く。次の瞬間に訪れるであろう衝撃を、息を呑んで覚悟したのだが──。

「っ……!」

 ルーチェが転倒することはなかった。身体が傾いた時、すぐさまヴィルジールがルーチェの腰を抱き寄せたからだ。

 わあっと周囲から拍手が上がる。今の連続のターンが曲の終わりだったのだろう。

「なんて素敵なの……!」

「皇帝陛下が踊られるなんて!即位以来初めてではないのか?!」

「お似合いなふたりだわ」

 ふと聞こえてきた会話に、鼓動が高鳴る。

 ヴィルジールは平然とした顔をしていたが、その口の端は引かれ、笑っているようにも……見えた。
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