亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「なぜ笑っている」

「いえ、その……陛下も散歩をされるのだなあと」

「一日中座っていたら、気がおかしくなるだろう」

 ヴィルジールはふっと口元だけで微笑むと、ぐるりと庭園を見回した。

「久しぶりに来たが、ここは相変わらずだな」

「いらしたことがあるのですね」

「子供の頃にな」

 ヴィルジールは少し前のめりになり、手を重ね合わせながら遠くを見始めた。その目は門の傍にある、白い石碑へと注がれている。

「ソレイユ宮。ここは聖女の伝説が残る場所だ」

 ルーチェも石碑を見遣った。不思議な造形で、中央に何か文字のようなものが刻まれているが、この距離でははっきりと読むことはできなかった。

「この国に聖女様はおられないのですか?」

「何百年もの間いない。それらしき力を持った者は稀にいて、我こそはと名乗りを上げていたが……どれもハッタリだ。人より治癒魔法が優れているだけで、それ以上のことは何も」

 魔法が使えるだけでも凄いことだとルーチェは思うが、それだけでは聖女となるのは難しいようだ。それほどまでに稀有な存在なのだろう。

「……ソレイユ宮、ですか」

「ここに来た聖女の名前だそうだ。祖先と盟約のようなものを結んだと聞いているが、詳しいことは分からない」

 遥か昔に、ここに現れた聖女──ソレイユ。彼女はヴィルジールの祖先と、何かを結んだ。それ以上のことは何も残っていないとヴィルジールは静かに語った。
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