兄弟の溺愛に堕ちて
次の瞬間、一真さんが一歩近づいてきた。

距離が一気に詰まって、息が止まりそうになる。

「……あいつに、何かされなかったか。」

「えっ……?」

その問いに、心臓が大きく跳ねた。

——“何かされた”っていうか……もう、手を付けられているんですけど。

でもそんなこと、言えるはずがない。

答えられずにいると、一真さんは苦々しそうに唇を歪めた。

「あいつは、女とくれば見境なく口説く。」

ズキンと胸が痛む。

その言葉は、まるで私の胸の奥を突き刺すようで。

——見境なく。
——誰にでも。

頭の中に、蓮さんの囁きが蘇る。

『美咲だけだよ。』

あれも、冗談だったのだろうか。

私だけが特別なんじゃなくて、ただの遊び……?

胸がざわつき、視線を落とした。

「少し、外の空気を吸おうか。」

そう言って、一真さんはカーテンを開け、私をバルコニーへと導いた。
< 90 / 106 >

この作品をシェア

pagetop