赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「名で呼んでくれないのは、君を危険な目に遭わせたからじゃなかったのか」

 ぼそっと吐き出された言葉に首を傾げた私は、近い距離で私を見つめる紺碧の瞳を見返す。

「へい、か?」

「これでも君を真似て必死で機嫌取りをしていたつもりだったんだが。全く伝わってなかったな」

 どういう事? と疑問符いっぱいの私を見てクスッと笑ったセルヴィス様は、袖口から何かを取り出すと私の手にそっと乗せた。

「ここに帰って来る、という君の意思表示だと思っていたのだが、違ったか?」

 それは、私が壊さないようにと置いていったダリアの簪だった。
 私は手に取りそっとそれを検める。少し乱暴に投げ入れてしまったから傷ついていたらどうしようと思っていたのだけど、衣装部屋の床に敷かれていた絨毯のおかげで傷一つない状態だった。

「拾ってくださったのですね。ありがとうございます」

 ほっとして礼を述べた私に、

「君は大事なモノを目につきにくいところに隠す習性があるな」

 優しげな視線を向けたセルヴィス様は、

「まるでリスみたいだ」

 と揶揄うような口調で笑う。

「あら、それは私が臆病で警戒心が強い小物だと言いたいんですか?」

 気が緩んでいたことにはっとし、暴君王女らしく憎まれ口を叩いた私は、

「リスは侮れませんよ? リスの噛み付く力は結構強いですし、彼らがうっかり木の実を掘り起こし忘れてくれるおかげで森が育ちます。それにフォルムが可愛いらしいですし、ふわっふわっの毛並みが最高です」

 ぐっと拳を握りリスの毛並みについて語る私を見ながらやや不機嫌そうに眉を顰めるセルヴィス様。

「散々ヒトのことを好き勝手モフッていた癖に、君は浮気性だな」

「浮気って」

 モフッていたのは事実だが、酷い言われようだ。
 反論を述べようとした私より先に、

「犬派に鞍替えさせるには、どうすればいいんだろうな」

 ぽつりと言葉が落ちて来る。

「以前、君が要求した"最低限の身の安全の保証"もお気に召さなかったようだし」

 私の蜂蜜色の髪を優しく何度も梳きながら私を見つめる紺碧の瞳は、まるで焦がれるような色をしていて。
 勘違い、しそうになる。

「そんなモノを要求した覚えは……」

 咄嗟に視線を逸らした私は急にカルディアの夜を思い出す。

『最低限、身の安全は保証してください』

『生憎と私セルヴィス様と違って温室育ちなもので』

『うるさいのは嫌。血なまぐさいのも嫌。もし誰かがこの部屋に押し入ったとして、それを殺るなら、寝ている私に気づかれないようにしてくださる?』

 そう、私は確かに言ったのだ。
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