赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
いつもの温室にセルヴィス様が魔法で明りを灯す。
「わぁ、温室が一気に暖かくなりましたね! すごい」
感動して声を上げる私に、
「とはいえ、一時的なものだ。魔道具のような持続性はない」
魔力でゴリ押してるだけだとセルヴィス様は淡々と告げる。
「全く。後宮内だけでなく、こっちの補修にも金を使えば良かったのに」
シエラの手を借りてすっかり冬支度を済ませた後宮とそこで働く使用人達。
その費用は全てセルヴィス様からの贈り物で賄った。
「ふふっ、こっちは私の秘密基地ですから」
誰にも知られていないここに費用を投じたら、収支が合わずここの存在がバレてしまうかもしれない。
それに、帝国のお金は帝国のために使われたほうがいい。
近い将来いなくなる偽物の寵妃ではなく、いずれ彼に嫁ぐ本物の妃のために。
そう思った途端、ぐしゃりと心が痛みを伴い、気持ちが沈む。
「どうした、ベラ?」
私を案ずる紺碧の瞳と耳に馴染む優しい声。
私はいつからこんなに欲張りになってしまったんだろう。
嫉妬、なんてお門違いにも程がある。
偽物のくせに、と自分に釘を刺すと、
「……セルヴィス様がいらっしゃる時だけ暖かければ十分ですよ」
私はもらった暖かな羽織を見せて笑った。
「調子はどうですか?」
トンと処方薬の入った小瓶を置いた私はセルヴィスにそう尋ねる。
「満月が近いとは思えないほど楽だな」
確かに顔色も良いし、表情も穏やかだ。
帝国に嫁いできた頃の不健康の塊だったセルヴィス様とは比較にならない改善具合。
「やっぱり今の状態に合わせるとこれがベストなレシピですね」
初めてコレを作った時はただ無我夢中でキチンとした量を計れていなかったが、あれから何度か調整し、発作を抑えられる薬のレシピを作る事ができた。
「あとは安定的にルクアの実を育てられたら良いのですけれど」
薬の材料になるルクアの実。イチゴによく似た形をしているそれは、まったく異なる植物で、なかなか育成が難しい。
保管されていた種から育て幾つか株分けをしたけれど、安定供給にはまだまだ課題がありそうだ。
「とりあえずコレをお渡ししておきますね」
ルクアの実の育て方と薬のレシピをセルヴィス様に差し出す。
これで当面苦しまずに済むはず。
私の知識がセルヴィス様の役に立てるなら嬉しいなと思っていたのだが。
「大事な交渉材料だろ。あっさり渡してしまっていいのか?」
そう言ってセルヴィス様は受け取らない。
「君はもう少し自分の知識の価値を知ったほうがいい」
確かに、本物の暴君王女ならコレを使ってもっと良い条件を引き出しそうだなと思ったけれど。
「私のためですよ」
暴君王女らしく澄ました顔で薬のレシピを押し付けると、
「売国先の皇帝陛下が倒れてしまったら、私の計画まで頓挫してしまいますから」
そう言ってセルヴィス様の手をとり、紺碧の瞳を見ながら微笑む。
私にとって、唯一の家族であるイザベラは大事。彼女が大切にしているクローゼアも。
でも、それと同じくらいセルヴィス様が痛いのも苦しいのも私は嫌だから。
「もらってください。私のために」
これが暴君王女らしからぬ選択だったとしても、私は自分の心に従うことにした。
「ああ、ありがとう」
セルヴィス様はお礼を言って受け取ってくれた。
「わぁ、温室が一気に暖かくなりましたね! すごい」
感動して声を上げる私に、
「とはいえ、一時的なものだ。魔道具のような持続性はない」
魔力でゴリ押してるだけだとセルヴィス様は淡々と告げる。
「全く。後宮内だけでなく、こっちの補修にも金を使えば良かったのに」
シエラの手を借りてすっかり冬支度を済ませた後宮とそこで働く使用人達。
その費用は全てセルヴィス様からの贈り物で賄った。
「ふふっ、こっちは私の秘密基地ですから」
誰にも知られていないここに費用を投じたら、収支が合わずここの存在がバレてしまうかもしれない。
それに、帝国のお金は帝国のために使われたほうがいい。
近い将来いなくなる偽物の寵妃ではなく、いずれ彼に嫁ぐ本物の妃のために。
そう思った途端、ぐしゃりと心が痛みを伴い、気持ちが沈む。
「どうした、ベラ?」
私を案ずる紺碧の瞳と耳に馴染む優しい声。
私はいつからこんなに欲張りになってしまったんだろう。
嫉妬、なんてお門違いにも程がある。
偽物のくせに、と自分に釘を刺すと、
「……セルヴィス様がいらっしゃる時だけ暖かければ十分ですよ」
私はもらった暖かな羽織を見せて笑った。
「調子はどうですか?」
トンと処方薬の入った小瓶を置いた私はセルヴィスにそう尋ねる。
「満月が近いとは思えないほど楽だな」
確かに顔色も良いし、表情も穏やかだ。
帝国に嫁いできた頃の不健康の塊だったセルヴィス様とは比較にならない改善具合。
「やっぱり今の状態に合わせるとこれがベストなレシピですね」
初めてコレを作った時はただ無我夢中でキチンとした量を計れていなかったが、あれから何度か調整し、発作を抑えられる薬のレシピを作る事ができた。
「あとは安定的にルクアの実を育てられたら良いのですけれど」
薬の材料になるルクアの実。イチゴによく似た形をしているそれは、まったく異なる植物で、なかなか育成が難しい。
保管されていた種から育て幾つか株分けをしたけれど、安定供給にはまだまだ課題がありそうだ。
「とりあえずコレをお渡ししておきますね」
ルクアの実の育て方と薬のレシピをセルヴィス様に差し出す。
これで当面苦しまずに済むはず。
私の知識がセルヴィス様の役に立てるなら嬉しいなと思っていたのだが。
「大事な交渉材料だろ。あっさり渡してしまっていいのか?」
そう言ってセルヴィス様は受け取らない。
「君はもう少し自分の知識の価値を知ったほうがいい」
確かに、本物の暴君王女ならコレを使ってもっと良い条件を引き出しそうだなと思ったけれど。
「私のためですよ」
暴君王女らしく澄ました顔で薬のレシピを押し付けると、
「売国先の皇帝陛下が倒れてしまったら、私の計画まで頓挫してしまいますから」
そう言ってセルヴィス様の手をとり、紺碧の瞳を見ながら微笑む。
私にとって、唯一の家族であるイザベラは大事。彼女が大切にしているクローゼアも。
でも、それと同じくらいセルヴィス様が痛いのも苦しいのも私は嫌だから。
「もらってください。私のために」
これが暴君王女らしからぬ選択だったとしても、私は自分の心に従うことにした。
「ああ、ありがとう」
セルヴィス様はお礼を言って受け取ってくれた。