赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「それで、体調は?」
「大丈夫、です」
「そうか」
言葉ではそう言うが、全く信用していなさそうな紺碧の瞳がじっと私の事を観察する。一つの違和感も見逃すまい、とするかのように。
「ふふっ、本当に大丈夫なんです。心配してくれてありがとうございます」
何から話せばいいだろう、と言葉が見つけられない私より先に、
「先日は、困らせてしまって悪かった」
セルヴィス様は静かな口調で話し出す。
「だが、後悔はしていないし、君を今のクローゼアに返す気はない」
「でも、私は……」
私が帰らなければ、イザベラが表立って動く事ができない。
言えない事情に沈黙する私を見て大きくため息をついたセルヴィス様は、
「……返すにしても、人を入れて風通しをよくしてからだ」
返したくないけど、と不満気に言葉を付け足した。
「ベラ。先日も伝えた通り、俺は君が好きだよ」
私を真っ直ぐ見て言葉を紡ぐ。
「凛として強くあろうとするところも、いつも誰かのために一生懸命頭を悩ませる姿も、嬉々として植物や薬効の解説する天色の瞳も、満足気に俺の毛並みを撫でる優しい手も、全部好きだよ」
落ちてくる言葉はいつも通り優しくて、私に向けられた紺碧の瞳に熱が上がりそうで。
頬が赤く染まってしまわないかと顔を覆う私に、
「でも、だからと言って君が応えてくれるかどうか、もっと言えば君の売国計画とは切り離して考えてくれていいんだ」
とセルヴィス様は話を続ける。
「どうして、ですか?」
「理由は2つ。1つは君が好きだから売国を受け入れようと思ったわけではないから。実際、クローゼアを取り入れることはウチにとってもメリットが多い」
負債だらけのクローゼア。
だけど、早々にオゥルディ帝国が打ち負かしてくれたおかげで各所の傷は浅くまだ利用価値はある。
例えば、今のクローゼアの技術では取り出すことができず捨て置かれている鉱山とか。
「廃鉱山地域の一角にある未開発地。上手く隠した物だ」
それはお母様がまだお元気だった頃に見つけ、うっかりを装い紛失させた資料の中にあった情報。
クローゼアにはそういった隠し財産がいくつもあり、今はもう私とイザベラ以外把握している者はいない。
「全てお母様のおかげです」
隠された資産、有能な人材、それらがあっても上が変わらなければ立て直すことは難しい。
だからこそ私はそれらを手土産に帝国の庇護を受ける事を選んだ。
それがきっと孤軍奮闘するイザベラを救える最も高い可能性だったから。
「もう一つは?」
「権力を盾に君を支配する、先代のような真似は絶対にしたくない」
紺碧の瞳が険を帯びたけど、それはすぐに潜められて哀しい色に変わる。
「だが、俺にもアイツと同じ血が流れているし、化け物じみた力を持っているから……。君を、傷つけていたらすまない」
「……あなたに、傷つけられた事など一度もありません。いつも、気にかけてくださるではないですか」
セルヴィス様にはきっと、私では想像できない程の辛い過去があるのだろうけれど。
「私はセルヴィス様の全てを知っているわけではないけれど」
私はセルヴィス様の紺碧の瞳を見返して、
「ヴィーは化け物なんかじゃない。私利私欲で誰かを傷つけたりしない、とても強くて優しい人です」
これだけは自信を持って言えます、と私はセルヴィスに本心を伝えた。
「大丈夫、です」
「そうか」
言葉ではそう言うが、全く信用していなさそうな紺碧の瞳がじっと私の事を観察する。一つの違和感も見逃すまい、とするかのように。
「ふふっ、本当に大丈夫なんです。心配してくれてありがとうございます」
何から話せばいいだろう、と言葉が見つけられない私より先に、
「先日は、困らせてしまって悪かった」
セルヴィス様は静かな口調で話し出す。
「だが、後悔はしていないし、君を今のクローゼアに返す気はない」
「でも、私は……」
私が帰らなければ、イザベラが表立って動く事ができない。
言えない事情に沈黙する私を見て大きくため息をついたセルヴィス様は、
「……返すにしても、人を入れて風通しをよくしてからだ」
返したくないけど、と不満気に言葉を付け足した。
「ベラ。先日も伝えた通り、俺は君が好きだよ」
私を真っ直ぐ見て言葉を紡ぐ。
「凛として強くあろうとするところも、いつも誰かのために一生懸命頭を悩ませる姿も、嬉々として植物や薬効の解説する天色の瞳も、満足気に俺の毛並みを撫でる優しい手も、全部好きだよ」
落ちてくる言葉はいつも通り優しくて、私に向けられた紺碧の瞳に熱が上がりそうで。
頬が赤く染まってしまわないかと顔を覆う私に、
「でも、だからと言って君が応えてくれるかどうか、もっと言えば君の売国計画とは切り離して考えてくれていいんだ」
とセルヴィス様は話を続ける。
「どうして、ですか?」
「理由は2つ。1つは君が好きだから売国を受け入れようと思ったわけではないから。実際、クローゼアを取り入れることはウチにとってもメリットが多い」
負債だらけのクローゼア。
だけど、早々にオゥルディ帝国が打ち負かしてくれたおかげで各所の傷は浅くまだ利用価値はある。
例えば、今のクローゼアの技術では取り出すことができず捨て置かれている鉱山とか。
「廃鉱山地域の一角にある未開発地。上手く隠した物だ」
それはお母様がまだお元気だった頃に見つけ、うっかりを装い紛失させた資料の中にあった情報。
クローゼアにはそういった隠し財産がいくつもあり、今はもう私とイザベラ以外把握している者はいない。
「全てお母様のおかげです」
隠された資産、有能な人材、それらがあっても上が変わらなければ立て直すことは難しい。
だからこそ私はそれらを手土産に帝国の庇護を受ける事を選んだ。
それがきっと孤軍奮闘するイザベラを救える最も高い可能性だったから。
「もう一つは?」
「権力を盾に君を支配する、先代のような真似は絶対にしたくない」
紺碧の瞳が険を帯びたけど、それはすぐに潜められて哀しい色に変わる。
「だが、俺にもアイツと同じ血が流れているし、化け物じみた力を持っているから……。君を、傷つけていたらすまない」
「……あなたに、傷つけられた事など一度もありません。いつも、気にかけてくださるではないですか」
セルヴィス様にはきっと、私では想像できない程の辛い過去があるのだろうけれど。
「私はセルヴィス様の全てを知っているわけではないけれど」
私はセルヴィス様の紺碧の瞳を見返して、
「ヴィーは化け物なんかじゃない。私利私欲で誰かを傷つけたりしない、とても強くて優しい人です」
これだけは自信を持って言えます、と私はセルヴィスに本心を伝えた。