赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「また地味な嫌がらせを考えるね」

「塩は侮れないわよ? あなたの話がただの戯言と判断したら私は容赦なくコレを引く」

 あれだけの傷だ。
 少し塩水が触れるだけでも激痛必至。
 そうでなくとも高濃度の塩水なんて目に入れば失明のリスクだってある。

「この状況で君たちを謀って何になる? 聞いた通り、父から私は死んだモノと思われていてハリス公国から助けは来ない」

 両手を上げ反撃の意思がないことを示すエリックは、

「さて、話の続きをしようか?」

 そう言って私を促した。

「それで、そんな話を持ち出すなんて命が惜しくなりましたか?」

 エリックの真意を推し量ろうと彼と対峙する。
 満身創痍、という言葉がピッタリなほど傷だらけで碌な手当を受けていないエリック。
 おそらくセルヴィス様が私を連れてくるまでに何度となく尋問を受けたのだろう。
 それでも情報を漏らさなかった彼は、

「ああ、惜しい」

 キッパリとそう告げる。

「でも、それは私の命ではない。そんなものはくれてやる」

「では、誰の?」

「グレイスを助けて欲しい。それが叶うなら他はいらない」

 揺らぐことのない翡翠の瞳は私を見つめ、

「賢い君ならもうグレイスの正体に気づいているだろう。彼女の命の保証と引き換えに、私が知っている"ジェシカ・ローウェン"の計画をリークする」

 静かに迷うことなくグレイスの助命を願った。

 エリックの提案に私は目を見開き、落ち着けと自分に言い聞かせて深呼吸する。
 内容を聞かなければ判断できないが、それがクローゼアに関わる話なら見過ごすことはできない。
 "死の霧"という毒薬の流出。
 合わなかった武器の数と予測より長引いた帝国との戦い。
 実際起きている出来事やセルヴィス様の話から、エリックの話を有り得ないと切り捨てることはできないけれど。

「その条件は……」

 私の独断で受け入れられるものではない。
 セルヴィス様が壊滅させようとしているローウェンファミリア。その筆頭である"ジェシカ・ローウェン"を生かしておくという選択肢はきっとセルヴィス様にはない。
 帝国のことを考えるなら、クローゼアごと切り捨ててしまうのが一番安全なのだから。

「歴代同様"ジェシカ・ローウェン"を生かしておくことはできない。無論、ローウェンファミリアと繋がりがある以上グレイス・ド・キャメル伯爵令嬢の存在も容認できない」

 冷たくはっきりと告げる声を聞きながら、やはり、と思った私の頭にポンとあたたかな手が乗る。

「その条件の下、グレイス個人の処遇については彼女が考える。異論は認めない」

 そこが妥協ラインだと言ったセルヴィス様の目は、大丈夫だと私に告げる。
 しばらくセルヴィス様と私をじっと見ていたエリックは、

「充分だ」

 とセルヴィス様に頷いて、

「私の愛しいお姫様を頼んだよ、イザベラ妃」

 私に彼女の運命を託した。
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