赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「血統主義を謳っているのも、自分達こそ神に選ばれた尊い存在だと語っているのも王とその取り巻きの古参貴族だけ。民意はそれとは随分乖離している」

 民がそうありたいと望むなら、変わらなくてはと静かに告げたイザベラは、

「私が国の害悪になっている原因全てを失脚させ、幕を引く。それが第一王女の責務であり破滅なんて暴君王女らしい最後だと思わない? だからそんな顔をしないで」

 もう、しょうがない子ねとお姉さんらしい顔で笑う。

「だって、この結末じゃ……」

 イザベラも裁かれてしまう。
 今のズタボロの王政をギリギリのところで支えて来たのはイザベラなのに。
 そんな彼女も国民を苦しめた"悪"なのだろうか?

「善悪でいえば私は間違いなく"悪"でしょう。悪政は誰かが終わらせなくてはならない。だから私が暴君王女を演じるの」

 ポロポロと涙を溢す私にハンカチを差し出してくれた。

「もう、泣かないの。私ならせいぜい王籍の剥奪くらいよ」

 イザベラは命までは取られないと思うわと肩を竦めるけれど。

「それでも……それでも! 私、本当は……ずっと……ずっと見たかったっ! ベラがその頭に王冠を戴き、国民に望まれて女王になる姿を」

 涙と共に私の本音が溢れ落ちる。
 その蜂蜜色の髪に輝く王冠を乗せたイザベラが、笑顔で武装し前を向いて突き進み。
 そして、いつかイザベラの功績が正当に評価され、暴君王女なんて後ろ指をさす人なんていなくなる。
 そんな私が見ることの叶わない、いつかの夢。

「オゥルディ帝国に売国しても、イザベラなら国でなくなったあとのクローゼアを領主として上手くまわしていけると思っていたのに」

「別にトップの座につけなくても構わない。それに私にはリィルがいるじゃない」

 イザベラは泣き止まない私の手を取りコツンと額を合わせる。

「想像してみて。治める人間が変われば国の考えも変わる。私達双子なの、って堂々と二人揃って外を歩ける日だっていつか来るわ!」

 それが私の夢なのとイザベラは笑う。

「ねぇ、全部が終わったら2人で旅に出るのも有りじゃない? 世界中見てまわりながら移住先を決めるの!」

 きっと世界のどこかには双子だって受け入れてくれるところがあるはずよ、と自信満々に言ったイザベラは、

「ああ、でも二人旅だとサーシャが心配しそうね。んー私の配下の人間は売国後も取り立ててもらえるようにしてなるべく残して行きたいんだけど……どうやって保護者達を巻こうかしら」

 売国計画の次は逃亡計画ね! と笑う。
 イザベラと入れ替わっていない時に、人に見つかってはいけない。それは双子が許されないこの国で私が生きるためのルールだった。
 それなのに、イザベラの語る未来にはいつも私がいた。

「ねぇ、ベラ。私、ベラが大好きよ」

 生き残るためならなんだってした。
 私が耐えられたのは、いつだってイザベラがいた(一人じゃなかった)からだ。
 自惚れかもしれないけれど、きっとそれはイザベラも同じで。
 だからこそイザベラを遺して逝くのだと言えなくて、最後まで黙っているつもりだったけど。
 私は大事な事を見落としていた。

「ふふっ、知ってるわ」

 私達相思相愛ね! と天色の瞳は優しく笑うイザベラ。

「ベラ、大事な話がある」

 彼女は私を犠牲にする事を良しとしない。
 そしてきっと、逆の立場だったなら私は黙って一人で逝った彼女を許さないし、悲しみで途方に暮れる。
 どうして、たった一言言ってくれなかったの? って。

「リープ病、なの。このままなら、私に残された時間は長くない」

「リープ……病」

 それは、私達のお母様を死に至らしめた病気の名前。
 さっと青ざめたイザベラは、爪が食い込むほど強く自身の腕を抱きかかえたけれど、直ぐに真っ直ぐ天色の瞳を私に向けて、

「続けて。まだ話の続きがあるのでしょう」

 取り乱す事なく話の続きを促した。
 凛と立つその様は強くて美しい、私の大好きな暴君王女(お姉様)の姿で。

「暴君王女にお願いがあるの」

 私は世界で一番信じられる私の姉にこれから先の物語を託した。
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