赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
 正義は常に勝者が作るものだ。
 真相など、どうとでも改ざんできる。
 空の玉座を預かるという程でのクローゼアの制圧。そして、この国を拠点として、次は帝国の玉座を手中に収める。
 いつまでもあんな出来損ないに玉座を預けてなるものか。
 破滅の物語(英雄譚)の行く末は決まっている。この玉座の間へと続く一本道のように。

「さぁ、悪を討てーーーっ」

 怒号と共にドアを破った瞬間だった。

「遅い」

 待ちくたびれた、とつまらなそうに彼らを出迎えたのはたった一人。
 冷酷な獣のように鋭い紺碧の瞳と漆黒の夜のような真っ黒な髪が印象的な、圧倒的強者。

「……セルヴィス・ロダリオ・オゥルディ。何故、貴様が」

 どうしてセルヴィスがココにいるのか、とハリス大公は戸惑う。
 セルヴィスがクローゼアに来ていることは把握していた。
 だからこそ制圧に出向く日の偽情報を流していたし、現在の襲撃は"こちらが把握していた日より早く反逆が起きたためやむを得ず出立した"という程にしていたというのに。
 それよりも、何よりも。

「何故? おかしなことをいう。妻に請われたからな。盗人から祖国を守って欲しい、と」

 知っていただろう、と口角を上げセルヴィスは薄く冷酷な笑みを浮かべる。
 大きなガラス越しに満月の光を浴びてもなおヒト型と理性を保つセルヴィスに、獣人の血を引く呪いに侵されている様子は見受けられない。
 全てを見透かした双眸にハリス大公の神経は逆撫でられ怒りは急速に沸点を超える。

「違う!! 何故、貴様がヒトの形を保っているのかと聞いているのだーー!!」

 わざわざセルヴィスが動けない満月の夜に、クローゼアの襲撃とオゥルディ帝国の宮廷制圧を同時に実行した。
 計画は完璧だったはずなのに。
 否、完璧にすればいい。
 今から、この手で。

「かかれー! たかが化け物一匹だーーーー!!」

「情報が古いんだよ。老害が」

 まるで全てを奪い取る死神のように静かに剣を構えたセルヴィスは、

「それに俺は化け物じゃない」

 はっきりとそう告げる。
 自信に溢れたそこには迷いも劣等感もなかった。

『ヴィーは化け物なんかじゃない。私利私欲で誰かを傷つけたりしない、とても強くて優しい人です』

 セルヴィスはそう言って自分を肯定してくれた天色の瞳を想う。
 自分はそんな立派な人間ではないけれど、彼女がそうだというなら、そうありたいと思うのだ。

「さて、因縁と決着をつけるとしよう」

 だから、立ち塞がるものは薙ぎ倒す。
 誇れる自分になるために。
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