赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「イザベラはこの国の情勢をよく押さえているようだ」
「お褒め頂き光栄です」
当然だ。
私はそのためにこの国に来たのだから。
「イザベラ。お前は大人しくしている気はなさそうだな」
「ないですね。言ったでしょう、奇跡なんて待っていても起きない。可哀想なヒロインに王子様が手を差し伸べてくれるのなんて御伽話の世界だけですわ」
これでダメなら別の手を考えます、と私は肩を竦める。
「側妃として後宮で動けばお前自身の身も狙われることになるとしても、か?」
紺碧の瞳が狼のように鋭い光を帯びる。
自分が強者である、と知っている眼。
そして、命を賭ける覚悟があるのか? と問う眼。
「ふふ、面白いことをおっしゃる」
私の答えなんて、クローゼアで初めて死にかけた時から決まっている。
「"王家に生まれた以上民に尽くし、この命を捨てる覚悟などとうにできている"……なんて、言えば満足ですか? 国のために死ぬなんて冗談じゃないっ!!」
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
絶対に、死にたくない。
王女として国から認められなくても。忌み子だと誰に蔑まれようとも。
何度、この身を毒に侵されようとも。
ずっと、そう思って生きてきた。
「私は自分からこの命を放棄したりなんか、絶対にしない」
だって、私が死んだらイザベラはあの魔窟でたった一人だ。
だけど私の余命はあと僅か。
独りは、辛い。
夜が、二度と明けないのではないかと思うほどに。
「己の無力さに苦しもうが、恥辱に悶えようが、泥水をすすってでも意地汚く"生"にしがみつく」
なら消え逝く私は、たった独りでこれから先を立ち続けなければならない片割れに、"鮮烈な生"を遺そうと思う。
自分のために泣かない彼女が"一人で戦ったわけではなかった"と孤独に押し潰されずに済むだけの鮮やかに色付いた私の物語を。
「だって将が倒れたら、誰がクローゼアの民を救済するのですか?」
決意表明を告げた私は紺碧の瞳に目的を告げる。ここでイザベラとして有用性を示れば、きっとイザベラがクローゼアの民を生かす方法に繋がる。
クローゼアの王なら冠を捨てるなんてありえないけれど、イザベラは違う。民を生かす最善手だと判断したら、国が無くなる事だって躊躇わない。
そしてイザベラの本性を見抜き才を買ってくれたセルヴィス様なら、離縁後のイザベラを悪いようにはしないはず。
「私は決して倒れない。私の名は、イザベラ・カルーテ・ロンドライン。覚えておいてください、私はあなたの敵ではないと言う事を」
だから、私はたくさんの本当の中に1つだけ嘘を混ぜる。
偽物姫がイザベラだ、という嘘を。
「なるほど、な。つまり、自分を含めたクローゼアの存続がお前の目的というわけか」
「クローゼアの名にも王家の冠にもこだわりはありません、という事も付け加えておきますわ」
クローゼアが強国に数えられていたのは昔の話。いくらイザベラが頑張ってくれているとはいえ、今のクローゼアでは帝国と対等な同盟国になるのは難しい。
それならばいっそ今後も成長が見込まれる帝国に早々に売国してしまってもいいのではないかと思う。
「後宮でその能力を示した後の最終目標は、一国の管理者、か。確かに悪くない手だな。だが、イザベラ。その計画には大きな穴がある」
私の話を聞き終えたセルヴィス様は、
「残念ながら、現在この後宮にはお前以外妃がいない」
さて、どうする? と世間話でもするかのような軽さでそう言って自身のお茶を飲み切った。
「お褒め頂き光栄です」
当然だ。
私はそのためにこの国に来たのだから。
「イザベラ。お前は大人しくしている気はなさそうだな」
「ないですね。言ったでしょう、奇跡なんて待っていても起きない。可哀想なヒロインに王子様が手を差し伸べてくれるのなんて御伽話の世界だけですわ」
これでダメなら別の手を考えます、と私は肩を竦める。
「側妃として後宮で動けばお前自身の身も狙われることになるとしても、か?」
紺碧の瞳が狼のように鋭い光を帯びる。
自分が強者である、と知っている眼。
そして、命を賭ける覚悟があるのか? と問う眼。
「ふふ、面白いことをおっしゃる」
私の答えなんて、クローゼアで初めて死にかけた時から決まっている。
「"王家に生まれた以上民に尽くし、この命を捨てる覚悟などとうにできている"……なんて、言えば満足ですか? 国のために死ぬなんて冗談じゃないっ!!」
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
絶対に、死にたくない。
王女として国から認められなくても。忌み子だと誰に蔑まれようとも。
何度、この身を毒に侵されようとも。
ずっと、そう思って生きてきた。
「私は自分からこの命を放棄したりなんか、絶対にしない」
だって、私が死んだらイザベラはあの魔窟でたった一人だ。
だけど私の余命はあと僅か。
独りは、辛い。
夜が、二度と明けないのではないかと思うほどに。
「己の無力さに苦しもうが、恥辱に悶えようが、泥水をすすってでも意地汚く"生"にしがみつく」
なら消え逝く私は、たった独りでこれから先を立ち続けなければならない片割れに、"鮮烈な生"を遺そうと思う。
自分のために泣かない彼女が"一人で戦ったわけではなかった"と孤独に押し潰されずに済むだけの鮮やかに色付いた私の物語を。
「だって将が倒れたら、誰がクローゼアの民を救済するのですか?」
決意表明を告げた私は紺碧の瞳に目的を告げる。ここでイザベラとして有用性を示れば、きっとイザベラがクローゼアの民を生かす方法に繋がる。
クローゼアの王なら冠を捨てるなんてありえないけれど、イザベラは違う。民を生かす最善手だと判断したら、国が無くなる事だって躊躇わない。
そしてイザベラの本性を見抜き才を買ってくれたセルヴィス様なら、離縁後のイザベラを悪いようにはしないはず。
「私は決して倒れない。私の名は、イザベラ・カルーテ・ロンドライン。覚えておいてください、私はあなたの敵ではないと言う事を」
だから、私はたくさんの本当の中に1つだけ嘘を混ぜる。
偽物姫がイザベラだ、という嘘を。
「なるほど、な。つまり、自分を含めたクローゼアの存続がお前の目的というわけか」
「クローゼアの名にも王家の冠にもこだわりはありません、という事も付け加えておきますわ」
クローゼアが強国に数えられていたのは昔の話。いくらイザベラが頑張ってくれているとはいえ、今のクローゼアでは帝国と対等な同盟国になるのは難しい。
それならばいっそ今後も成長が見込まれる帝国に早々に売国してしまってもいいのではないかと思う。
「後宮でその能力を示した後の最終目標は、一国の管理者、か。確かに悪くない手だな。だが、イザベラ。その計画には大きな穴がある」
私の話を聞き終えたセルヴィス様は、
「残念ながら、現在この後宮にはお前以外妃がいない」
さて、どうする? と世間話でもするかのような軽さでそう言って自身のお茶を飲み切った。