赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「私にその辺の書店で積まれているロマンス小説のような量産型の悪女を演じろ、と陛下が命じるのなら今回は大人しく引き下がりますけれど」

 私は緩んだセルヴィス様の腕から抜け出すと、

「陛下におかれましては"呪い"など微塵も信じていないご様子。呪いではないというのなら、果たしてこの現象は一体何なのでしょうね?」

 先程まで家臣達が懸命に訴えていた内容を言及しつつ、売り込みチャンスかと思いまして、と紺碧の瞳を覗き込む。
 曰く、オゥルディ帝国西部の街カルディアを中心に人々が次々と倒れている。
 カルディアはセルヴィス様が先帝を追い詰め処刑した場所でもあり、復興しつつある街で起きているこの異変を人々は先帝の呪いではないかと噂し、恐怖している、と。

「その口ぶりだと、お前も呪いなど信じていなさそうだな」

 セルヴィス様は報告書の一部を手に取るとそのまま私に手渡す。
 こんなにあっさり見せてもらえるなんて、と驚きつつ私はそれに目を落とす。
 そこにはここ最近頻発して起きている事件について書かれていた。
 
「そう、ですね」

 私はそこに書かれている情報を精査しながらペンを取る。
 吐き気、めまい、下痢といった症状を抱える者や、胸を押さえてもがき苦しむ者、何もない空間を指差しぶつぶつと理解不能な言葉を叫ぶ者など様々で、死亡事例も多数出ている。
 被害者は成人男性と子どもに多く見られているようだ。

「"呪いなど存在しない"と証明する手段は正直ありません」

 ないモノをない、と証明することはこの上なく難しい。
 否定する要素を提示したところで"ゼロに近い"はゼロにはならない。
 双子の片割れ(わたくし)が、国を害する忌み子ではない、と証明する手立てがないように。

「なので、起きている"事象"を分析し、既知の事実と照らして見るほうが合理的かと」

 私は言葉を紡ぎながら、場所、発生時期、考えられる範囲の共通項を地図に落とし込んでいく。

「少なくとも今起きているこれらは呪いではない、と思います」

 書き終わった私は手を止め、紺碧の瞳を見上げる。

「何らかの"中毒"症状である可能性が高いかと。まだその原因も、コレが人為的なモノなのか偶発的なモノなのかも分かりませんが」

 ここから先は現地調査をお勧めします、と私は考えられる可能性を記したレポートをセルヴィス様に提出した。

「同意見だ、が」

 レポートにざっと目を通したセルヴィス様は、

「現在の症状への対処法まで記載とは……沸騰させて冷ました水に塩と砂糖? 聞いたことのない薬だな」

 冷たい目で私を見返す。

「経口補水液です」

 私が記したのは、サーシャ先生に教わった身体に浸透しやすい飲み物の作り方。
 原因がはっきりと分からない以上対症療法しか取れない。
 下痢や嘔吐が多いなら、脱水にならないよう水分を補給させなければ身体が耐えられなくなるだろう。
 効き目はこの身体で実証済みだ。

「申し訳ありません。出過ぎた真似を」

 黙ってしまったセルヴィス様を前に、私は自分の立ち位置を思い出す。
 私は、この国に戦を仕掛けた側(・・・・・)の人間だ。クローゼアでそうだったように、きっと帝国でも沢山の人が傷ついた。
 勝手な理由で多くの命を踏み荒らしたくせに、どの面下げて帝国民を救いたいなんて言うんだと思われても仕方ない。
 だけど。

「クローゼアの人間の言葉など帝国民には信じて頂けないかもしれませんが、今これらの症状に直面している人間にとって、必要な処置なのです。これ以上の被害を防ぐためにも、どうかご英断を」

 情報の精査は医官でも薬師でもセルヴィス様の信頼のおける方に依頼してくださいと私は静かに頭を下げた。
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