赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「単純に、回収できる利益の方が多いと踏んだだけだ」
私の首に筋張った大きな手がかかる。
「その気になれば殺す事など造作もない」
淡々と。
何の感情も込められる事のない言葉として吐き出されたそれは、雄弁に事実を物語る。
私が自分の死を常に感じて生きてきたように、彼は他者の死を隣に置いて生きてきたのだと知る。
どうして、この人は冷酷無慈悲な皇帝陛下なんてしているんだろう? と、ふとそんなことが頭を過ぎった。
私とイザベラは2人で分け合えたけれど、この人はたった独りで全てを抱えているように見える。
冗談ではなくほんの少し指先に力が加われば、私の命を摘むことなんてセルヴィス様には簡単にできてしまうのだろう。
どんな脅し文句より恐怖しそうな状況なのに、私にはそんな生き方しか選べなかったのだと言っているように聞こえて。
それがなんだか無性に悲しくて、何故か急に泣きたくなった。
「そうでしょうね」
でも、勝手に心を推し量って泣くのはきっと違うから。
代わりに私は言葉を紡ぐ。
「でも、皇帝陛下として私に利用価値を見出している限り、あなたはきっとそうしない」
「随分と強気だな」
「ええ、だって私"暴君王女"ですから」
『よりにもよって、第一王女の双子として生まれてくるなんて』
『アレはヒトに非ず』
『不完全な存在は国に混沌をもたらす』
『忌々しい存在め』
生まれた時から今まで、存在を厭われ、蔑まれ、多くの悪意を浴びて生きてきた。
でも、冷酷無慈悲だと噂されるこの人からはただの一度もそんな感情を向けられた事がないのだ。
だから、分かる。セルヴィス様の本質は噂されるようなモノとは異なる、と。
「私のこの身が朽ちたなら、行き着く先はきっと地獄と呼ばれる場所なのでしょう」
私を構成するほとんどの情報は偽物で。
生まれた時から"悪"である私は、きっと死んでもお母様には会えない。
どうせ消えてなくなるだけならば、道草くらい、許されるだろう。
「私が先に逝ったその時は、明かりを灯して陛下のことをお待ちしておりますわ」
あなたが独りで道に迷う事がないように、と私は首に手をかけられたまま静かに笑い、私は言葉を締め括った。
「……まだ、必要性を感じていない」
セルヴィス様は静かに私の首から手を離す。
「左様でございますか」
私は静かにそう返す。
「では、私は陛下の気が引けるよう寵妃らしく務めを果たす事にいたします」
クローゼアを売国する気満々ですからと私は、改めて宣言する。
「そうか」
そっけなくそう言った冷え冷えとした紺碧の瞳を覗きながら思う。
いつか、本物の寵妃が現れてセルヴィス様の孤独を埋めてくれたらいいのに、と。
私の首に筋張った大きな手がかかる。
「その気になれば殺す事など造作もない」
淡々と。
何の感情も込められる事のない言葉として吐き出されたそれは、雄弁に事実を物語る。
私が自分の死を常に感じて生きてきたように、彼は他者の死を隣に置いて生きてきたのだと知る。
どうして、この人は冷酷無慈悲な皇帝陛下なんてしているんだろう? と、ふとそんなことが頭を過ぎった。
私とイザベラは2人で分け合えたけれど、この人はたった独りで全てを抱えているように見える。
冗談ではなくほんの少し指先に力が加われば、私の命を摘むことなんてセルヴィス様には簡単にできてしまうのだろう。
どんな脅し文句より恐怖しそうな状況なのに、私にはそんな生き方しか選べなかったのだと言っているように聞こえて。
それがなんだか無性に悲しくて、何故か急に泣きたくなった。
「そうでしょうね」
でも、勝手に心を推し量って泣くのはきっと違うから。
代わりに私は言葉を紡ぐ。
「でも、皇帝陛下として私に利用価値を見出している限り、あなたはきっとそうしない」
「随分と強気だな」
「ええ、だって私"暴君王女"ですから」
『よりにもよって、第一王女の双子として生まれてくるなんて』
『アレはヒトに非ず』
『不完全な存在は国に混沌をもたらす』
『忌々しい存在め』
生まれた時から今まで、存在を厭われ、蔑まれ、多くの悪意を浴びて生きてきた。
でも、冷酷無慈悲だと噂されるこの人からはただの一度もそんな感情を向けられた事がないのだ。
だから、分かる。セルヴィス様の本質は噂されるようなモノとは異なる、と。
「私のこの身が朽ちたなら、行き着く先はきっと地獄と呼ばれる場所なのでしょう」
私を構成するほとんどの情報は偽物で。
生まれた時から"悪"である私は、きっと死んでもお母様には会えない。
どうせ消えてなくなるだけならば、道草くらい、許されるだろう。
「私が先に逝ったその時は、明かりを灯して陛下のことをお待ちしておりますわ」
あなたが独りで道に迷う事がないように、と私は首に手をかけられたまま静かに笑い、私は言葉を締め括った。
「……まだ、必要性を感じていない」
セルヴィス様は静かに私の首から手を離す。
「左様でございますか」
私は静かにそう返す。
「では、私は陛下の気が引けるよう寵妃らしく務めを果たす事にいたします」
クローゼアを売国する気満々ですからと私は、改めて宣言する。
「そうか」
そっけなくそう言った冷え冷えとした紺碧の瞳を覗きながら思う。
いつか、本物の寵妃が現れてセルヴィス様の孤独を埋めてくれたらいいのに、と。