赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
 玉座の間。
 静かに出向けば人払いされたそこには国王陛下である父と双子の姉イザベラがいた。
 私がお父様に会えるのはそこだけで、一般的な父と子のような交流など一切ない。なぜなら私は出来損ないの方だから。

「毒に犯されたと聞いたが、まだ生きていたか。さすが我が娘イザベラの生を食っただけはあるな」

 そう言って落ちてくるのは、高圧的で嫌そうな声。

「生まれた時から罪深い、忌々しい不浄の子め」

 お父様はいつものように私をそう呼んだ。
 双子の片割れ。それは、存在するだけで罪深い。
 人は1人で生まれてくる。魂は1人に1つ。双子とは本来1つであるそれを2つに分けた不完全な存在だ、とこの国では信じられていた。
 本来であれば、生まれた瞬間に殺されなければならない存在。だけどそうならなかった。
 王の血を引く以上、私を勝手に殺す事は誰にもできず、それが唯一できたはずの父は私が生まれた瞬間城内にいなかったためだ。
 第一王女の誕生に沸いたその後、第一王女の世話をさせに使用人を下がらせ、人払いをしたその部屋でお母様はメーガンの手を借りひっそりと私を産んだ。
 双子の片割れとして生まれた私を離宮に隠したお母様は、そのまま何年も私の存在を隠したままイザベラと共に育ててくれた。時々イザベラと私を取り替えながら。
 一卵性の双子、ましてや物言わぬ赤子。入れ替えても誰にも気づかれなかったらしい。
 そうして、お互いの存在と癖を覚え込ませ、イザベラと私を入れ替えても分からないレベルで教育し、数年たってもお父様が私達を見分けられない事を確信してからようやく(リィル)をお父様の前に出した。
 この国の第ニ王女(イザベラの影)として。

「そのまま聞け」

 顔を上げることすら許されず、私は床に視線落としたまま陛下の言葉に耳を傾ける。

「この度の戦についてはお前の耳にも入っていることだろう」

 もちろん知っている。
 クローゼア王国は古くから存在する。その歴史ある自分達は尊く優れた種族だなんてよく分からない理屈で、資源欲しさに蛮国と見下す帝国に戦をしかけ負けた。
 今はその戦後の会談中だ。

「あの蛮族め。和解の条件として、イザベラを要求してきおった」

 まぁ、そうでしょうねと私は内心でため息を吐く。今後クローゼアを大人しくさせるためにも、人質は必要だ。
 が。

「あんな蛮族に嫁ぐなんて、絶対嫌っ!!」

 私には耐えられない、と天色の瞳から涙を落とすイザベラ。イザベラの特技は秒で泣ける事だ。最近はさらに特技に磨きがかかった気がする。

「ああ、可愛い我が娘よ。もちろんだとも」

 あーハイハイ。いつものパターンですね、分かりますーと私は決まりきったやり取りを白んだ気持ちで眺める。

「あんな低俗で野蛮な人間の元にイザベラをやれるものか」

 低俗で野蛮、ねぇ? と私はオゥルディ帝国皇帝陛下セルヴィス・ロダリオ・オゥルディ様の事を思い浮かべる。
 内乱や紛争の絶えなかった地域に追いやられていたはずなのに、そこから近隣諸国や属国をまとめ上げ悪政を強いていた前皇帝を粛正し、その座を奪い取った帝国の若き支配者。
 冷酷非情な性格で、帝位に着いた際一切の情けをかけることなく、父親と兄弟を斬り捨てたと聞く。
 なんとまぁ、羨ましい話だと私は内心でため息をつく。

「リィル。お前がイザベラとして帝国に嫁ぐのだ」

 そんな私の頭上から決定事項として降り注ぐいつもの無茶振りが降ってきた。
 戦争で負けた上に、穏便に済ませてやろうという帝国からの申し出を踏みにじって、騙そうとするなんて。
 やっぱりこの国の王様はロクデナシの上に頭がおかしいわ。
 バレたら今度こそ国が滅びかねないというのに。
 とはいえ私に言えるセリフなんて決まっている。

「拝命いたします」

 行かなければ、何も始まらない。
 私は王陛下の命令に従う事にした。
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