赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「部屋が一つしかない、だと」
割と早めに行動を開始したはずなのに、訪れた宿屋は満床寸前だった。
「他に空きのありそうな宿屋に心当たりはないか?」
セルヴィス様の問いに困った顔をした宿屋の主人が首を振る。
「舟入の時はどこだって満床さぁ。商人達がどっと押し寄せるもんで」
どうするのか、と問われ考え込むセルヴィス様を押しのけて、
「一部屋お願いします」
と私はお代をカウンターに置いた。
「リーリィ」
「私、もうくったくたなの。別に部屋が狭いくらいいいでしょ? あなた」
新婚なのだし、と言って腕を絡めれば、
「はは、ならベッドが狭いくらいなんの問題もねぇな」
宿屋の主人は意味有りげな視線と共にルームキーを渡してくれた。
「2階の右端だよ。いい夜を」
「ええ、どうも」
それを受け取った私はセルヴィス様に腕を絡めたまま階段の方へ足を進めた。
「正気か?」
パタンとドアが閉まった後、立ち尽くしたままのセルヴィス様は信じられないものを見るかのような視線を私に投げて寄越した。
そんな視線を浴びながら、この人は誠実な人なのだろうなと改めて思う。
私は壁を軽く叩き、先程購入した防音魔法の組まれた魔道具を設置する。王城で使われるようなしっかりしたものではないけれど、ないよりはマシだろう。
「元々、高級宿に泊まる気はなかったのでしょう?」
高級宿は予約なしで泊まれる所ではないし、仮に空いていたとしてもこんな格好で行けば門前払いなのは目に見えている。
「店主の言う通り、一部屋押さえられただけでも行幸でしょう」
私がいなければセルヴィス様は軒先を借りた野宿でも構わない人なのだろう。
宿の確保も部屋を分けようとするのも、多分それらは全部"私のため"なのだろうな、と私は今までの彼とのやり取りを通じてそう思う。
まぁ、素直に聞いたところで即時否定されそうだけど。なので、私も直球勝負はやめることにする。
「有無を言わさず私をカルディアまで連れて来たのです。最低限、身の安全は保証してください」
まだ死にたくはありませんので、と淡々とした口調で私は告げる。
「なら」
こう言えば外で見張りでもする、と言いかねないと思っていた私は、セルヴィス様の言葉を遮ってさらに続ける。
「生憎と私セルヴィス様と違って温室育ちなもので。侍女もいない、護衛もいない、こんな安宿に一人置き去りにされても困りますの」
誰が私の世話をするのですか? と傲慢な王女らしくそう尋ねる。
「私達は夫婦です。同室で同じベッドを使って何の問題がありますか?」
明日から現地調査をするのなら、少しでも身体は休めた方がいい。だというのに、今すぐにでも出て行きそうなセルヴィス様。
「調査前に騒ぎにでもなったら面倒です。気になる事もありますし」
「気になる事?」
そう聞いてきたセルヴィス様の言葉には答えず、私は意味ありげな笑みを浮かべる。
実際のところ、それはまだ微かな違和感でしかなく、はっきり言葉にできるものではなかったというのが本当のところだったのだけど。
「この狭い部屋で、その長い刀を振り回すおつもり?」
冗談でしょう? と私は暴君王女らしく嘲笑を浮かべる。
「うるさいのは嫌。血なまぐさいのも嫌。もし誰かがこの部屋に押し入ったとして、それを殺るなら、寝ている私に気づかれないようにしてくださる?」
その程度もできない人間が死神の二つ名で呼ばれることもないでしょう? と私はにこやかにそう言うと、ベッドに腰掛けぽんぽんと自分の隣を叩く。
あなたに許される選択肢は接近戦オンリーよと言外に告げて。
「……俺に襲われるとは思わないのか?」
「私はあなたの妻ですよ? どうぞご自由に」
論破できるもんならやってみろ、とばかりに私は挑発的な視線を向ける。
折れたのは、セルヴィス様の方だった。
「狭い、なんて文句言うなよ」
普段使わせていただいている、後宮の寝台に比べれば確かに狭いけれど、クローゼアの私の部屋のベッドに比べれば、そう小さいとも言えない大きさ。
「狭いくらいで文句は言いませんが、寝相が悪ければ足の1つも出るかもしれませんね」
クスッと笑った私は端の方に身体を寄せる。私が小柄な方なので、ベッドはなんとか2人で使用できそうだった。
「おやすみなさい、セス」
「ああ」
背中を向けたまま、低い声で返事が返ってきた。
誰かの気配があったら、眠れないかもしれないと思っていたけれど、思いのほか近い誰かの熱は心地よく、いつの間にか私はうとうとと眠りに落ちた。
割と早めに行動を開始したはずなのに、訪れた宿屋は満床寸前だった。
「他に空きのありそうな宿屋に心当たりはないか?」
セルヴィス様の問いに困った顔をした宿屋の主人が首を振る。
「舟入の時はどこだって満床さぁ。商人達がどっと押し寄せるもんで」
どうするのか、と問われ考え込むセルヴィス様を押しのけて、
「一部屋お願いします」
と私はお代をカウンターに置いた。
「リーリィ」
「私、もうくったくたなの。別に部屋が狭いくらいいいでしょ? あなた」
新婚なのだし、と言って腕を絡めれば、
「はは、ならベッドが狭いくらいなんの問題もねぇな」
宿屋の主人は意味有りげな視線と共にルームキーを渡してくれた。
「2階の右端だよ。いい夜を」
「ええ、どうも」
それを受け取った私はセルヴィス様に腕を絡めたまま階段の方へ足を進めた。
「正気か?」
パタンとドアが閉まった後、立ち尽くしたままのセルヴィス様は信じられないものを見るかのような視線を私に投げて寄越した。
そんな視線を浴びながら、この人は誠実な人なのだろうなと改めて思う。
私は壁を軽く叩き、先程購入した防音魔法の組まれた魔道具を設置する。王城で使われるようなしっかりしたものではないけれど、ないよりはマシだろう。
「元々、高級宿に泊まる気はなかったのでしょう?」
高級宿は予約なしで泊まれる所ではないし、仮に空いていたとしてもこんな格好で行けば門前払いなのは目に見えている。
「店主の言う通り、一部屋押さえられただけでも行幸でしょう」
私がいなければセルヴィス様は軒先を借りた野宿でも構わない人なのだろう。
宿の確保も部屋を分けようとするのも、多分それらは全部"私のため"なのだろうな、と私は今までの彼とのやり取りを通じてそう思う。
まぁ、素直に聞いたところで即時否定されそうだけど。なので、私も直球勝負はやめることにする。
「有無を言わさず私をカルディアまで連れて来たのです。最低限、身の安全は保証してください」
まだ死にたくはありませんので、と淡々とした口調で私は告げる。
「なら」
こう言えば外で見張りでもする、と言いかねないと思っていた私は、セルヴィス様の言葉を遮ってさらに続ける。
「生憎と私セルヴィス様と違って温室育ちなもので。侍女もいない、護衛もいない、こんな安宿に一人置き去りにされても困りますの」
誰が私の世話をするのですか? と傲慢な王女らしくそう尋ねる。
「私達は夫婦です。同室で同じベッドを使って何の問題がありますか?」
明日から現地調査をするのなら、少しでも身体は休めた方がいい。だというのに、今すぐにでも出て行きそうなセルヴィス様。
「調査前に騒ぎにでもなったら面倒です。気になる事もありますし」
「気になる事?」
そう聞いてきたセルヴィス様の言葉には答えず、私は意味ありげな笑みを浮かべる。
実際のところ、それはまだ微かな違和感でしかなく、はっきり言葉にできるものではなかったというのが本当のところだったのだけど。
「この狭い部屋で、その長い刀を振り回すおつもり?」
冗談でしょう? と私は暴君王女らしく嘲笑を浮かべる。
「うるさいのは嫌。血なまぐさいのも嫌。もし誰かがこの部屋に押し入ったとして、それを殺るなら、寝ている私に気づかれないようにしてくださる?」
その程度もできない人間が死神の二つ名で呼ばれることもないでしょう? と私はにこやかにそう言うと、ベッドに腰掛けぽんぽんと自分の隣を叩く。
あなたに許される選択肢は接近戦オンリーよと言外に告げて。
「……俺に襲われるとは思わないのか?」
「私はあなたの妻ですよ? どうぞご自由に」
論破できるもんならやってみろ、とばかりに私は挑発的な視線を向ける。
折れたのは、セルヴィス様の方だった。
「狭い、なんて文句言うなよ」
普段使わせていただいている、後宮の寝台に比べれば確かに狭いけれど、クローゼアの私の部屋のベッドに比べれば、そう小さいとも言えない大きさ。
「狭いくらいで文句は言いませんが、寝相が悪ければ足の1つも出るかもしれませんね」
クスッと笑った私は端の方に身体を寄せる。私が小柄な方なので、ベッドはなんとか2人で使用できそうだった。
「おやすみなさい、セス」
「ああ」
背中を向けたまま、低い声で返事が返ってきた。
誰かの気配があったら、眠れないかもしれないと思っていたけれど、思いのほか近い誰かの熱は心地よく、いつの間にか私はうとうとと眠りに落ちた。