赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「どうした? イザベラ」

 セルヴィス様に声をかけられ、私の飛んでいた思考が戻ってくる。

「いえ、身支度の準備をしたいのですけれど。セルヴィス様はいつまで私の観察を続けるのかしら、って」

 にこにこにこにこと作った笑顔で私はセルヴィス様をじっと見つめ、

「書類上とはいえ夫婦ですし、見られて減るものでもないので、私は別に構いませんが……まだ侍女の真似事続けます?」

 と尋ねれば、チッと舌打ちして無言で出て行った。

(使い魔)を置いて行かないって事は、すぐ近くにいるのかしらね?」

 閉じたドアを見つめ、壁に設置した防音魔法がオンになっている事を確認し、

「あぁ〜もう、セルヴィス様がいい人過ぎて罪悪感しかない。こんな優良拗らせ物件、絶対正妃(お嫁さん)探し難航するわ」

 盛大にため息と本音を漏らした。

「……失敗、したかもしれないな」

 ぎゅっと膝を抱え、私は顔を伏せる。

「こんな事なら(悪評)なんて信じず、最初からベラを帝国に嫁がせれば良かった」

 イザベラのためになる最善を選んだつもりで、選択を誤ってしまったのかもしれない、と私は後悔する。
 イザベラ相手にイカサマをしてまで私が帝国行きを選んだのは、私の残りの人生(時間)が少ないからだ。
 イザベラは第一王女らしく、クローゼアと国民の事を一番に考えていたけれど、私はずっとたった一人の家族の行末だけを案じていた。
 たとえ売国することでクローゼアがなくなったとしても、イザベラならその才覚を発揮して領主として生きていける。
 セルヴィス様の信頼を得て、管理者権限をもぎ取り、売国する。そのためのビジネス妃(人質生活)だったのに。

「優しさも気遣いも、全部(リィル)に向けられたものじゃないのに」

 一瞬でも、セルヴィス様の優しさに気持ちが浮ついてしまった。
 偽物姫の私に、そんな資格ありはしないのに。

「……ベラ、ごめん」

 罪悪感と考えても仕方ない"もしも"ばかりが浮かんでくる。
 もし、嫁いだのが帝国に指定された通りイザベラだったなら、支配者側の目線で物事を見る事のできる彼女とセルヴィス様はきっと気が合っただろう。
 私よりずっと人心掌握に長けているイザベラなら、本当にセルヴィス様の寵妃になれたかもしれない。
 そうなれたら、忌み子(双子の片割れ)に煩わされる事も、碌でもない父親に振り回される事もなく、不自由のない生活が送れたかもしれない。
 きっと、イザベラは自分だけ助かることを良しとはしないだろうけれど、それでも私はイザベラが泣かずに済む世界がいい。
 それはイザベラの希望を無視した、独りよがりでワガママな私の願いでしかないと分かっているけれど。

「……今更だわ。もう、後戻りはできない」

 私は遅延の魔法がかかった右手の指輪を撫で、痛んだ胸に手を当てる。
 私には時間がない。
 悔いている時間すら、もうないのだ。
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