赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「あら、小さな生き物を使っての"事故死"なんて暗殺の常套手段でしょう?」

 例えば、毒蜘蛛を寝室にばら撒いたり。
 例えば、毒蛇を乗馬の休憩所に忍ばせたり。
 例えば、毒蜂を庭園に解き放ったり。
 なんて、私の日常を軽く披露すれば。

「暴君王女はクローゼアでどれだけ嫌われてるんだ」

 紺碧の瞳は書類を追うのを止め、こちらを向いて苦笑した。

「私が死ねば継承順位の上がる人間もいますから」

 そんなよくある話なんてどこの国にも転がっているでしょう? と私はセルヴィス様に笑い返す。
 そう、こんなのはよくある話だ。イザベラの偽物が、彼女と血を分けた双子で瓜二つの容姿をしている、ということ以外は。
 だから私達を区別できない暗殺の刃は、いつまでたっても本物には届かない。

「対毒蛇や毒蜘蛛の解毒剤に興味がありましたら、ぜひクローゼアごと買い取ってくださいな」

 うちには優秀な薬師がおりますので、損はさせませんよ? と私はクローゼアのアピールポイントをセルヴィス様に語る。
 実際、サーシャ先生の調合する薬がなければ私の命などとっくに消えていただろう。

「で、帝国の後ろ盾を得てイザベラが国を治る、と。そんなに緋色の椅子が欲しいなら、反乱でも起こせば良かっただろう」

「ふふ、物騒ですね」

 セルヴィス様はそうして帝位に座しているけれど、彼のように革命を成し遂げる方が珍しい。
 だから、讃えられ語られるのだ。畏敬の念を込めたとても美しい物語として。

「そんな力が私にあれば、最初から売国なんて考えたりしません」

 本当の私はただの第二王女。継承権も与えられず、存在を厭われ、本来なら生まれてくることすら許されなかった忌み子。
 (リィル)には、何の力も権限もない。

「私は、あなたが羨ましい」

 自分の意思と力で何かを成せたあなたが、と小さくつぶやいた私を紺碧の瞳は黙ったまま見つめる。
 私の浅ましさを見透かしてしまいそうな紺碧の瞳と沈黙に耐えられなくなった私は視線を逸らし、

「陛下がいらないというのなら、全部売ってもいいですか?」

 とセルヴィス様に尋ねた。

「……好みのモノはなかったか?」

「ここには、ないですね。くれるというのなら、全部転売して賠償金の一部に当てたいです」

 どんな高価な品物も、これから先が長くない私には無価値だ。
 だってこれらは全部、私を思って用意された物ではないのだから。

「イザベラ。少し、散歩に出ないか?」

「お忙しいのでは?」

 書類はまだまだうず高く積み上げられているし、私と散歩したところで気分転換になるとは思えないけれど。
 私の問いに答えないセルヴィス様は静かに立ち上がり、ドアの前でコチラを振り返る。

「何をしている。行くぞ」

 強制的な言葉とは裏腹に、その声音はどこか優しい響きをしていて。
 カルディアの街を二人で歩いた時の事を思い出させた。

「……承知、しました」

 どうせ私に拒否権はない。セルヴィス様の気まぐれに心を乱すことがないように私は自分にしっかり釘を刺し、その背を追いかけた。
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