赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
 コレ、と言われた私は改めてセルヴィス様を見上げる。
 いつも通り整ったお顔立ちの頭上にあるのは狼の耳だけど。

「何か問題があります?」

 私は解せない、とばかりに首を傾げる。

「気持ち悪いだろ、普通に」

 セルヴィス様はケモ耳を指して苦笑するが。

「はっ? モフモフは正義ですよ?」

 ふざけたこと言ってると殴りますよ? と、つい反射的にドスの効いた声で返してしまった。

「正義、って」

「だって見た目可愛いし、ふわっふわで癒されるし、最高じゃないですか! 一体何の不満があってケモ耳を貶めるんですか!?」

 許すまじとばかりに怒りを露わに力説する私を紺碧の瞳で捉え、ゆっくりと瞬きをしたセルヴィス様は、堪えきれずといった感じで喉で笑う。

「……なんです? 討論(ケンカ)なら受けて立ちますけど」

「いや、君とケンカはちょっと」

 まだ笑いを殺しきれないセルヴィス様はそのまま私の髪を撫で、

「どちらかというと、仲良くしたいと思っている」

 と柔らかい口調でそう言った。

「礼をまだちゃんと言ってなかった。あの晩、助けてくれてありがとう」

 今まで対峙していた威圧的な皇帝陛下ではない彼は、私の知っている黒い狼そのもので。
 つい、気が緩みそうになる。

「いえ、こちらこそ失礼を」

 クールダウンした私が申し訳ありませんと口にするより早く、

「触るか?」

 とセルヴィス様が尋ねる。
 何を? と考えケモ耳に目がいき、流石にマズイっとブンブンと首をふったものの。

「撫でないのか? 普段散々揉みくちゃにしてるくせに」

 何を今更、と揶揄うような口調でセルヴィス様が誘惑する。
 正直モフモフは魅力的だし、頭との境目がどうなってるのか気になるし、長いことモフってないから触りたいけど。
 ううっと理性と欲望の狭間で葛藤していると、

「言っただろ。不敬罪などで問わない。仲良くしたいと思っている、と」

 セルヴィス様は静かにそう言った。
 確かに犬は信頼している相手にしか触らせないし、これはある種の友好の証なのかもしれない。
 悩んだ挙句、

「では、失礼して」

 私は自分の欲望を取った。

「ふわぁぁ、相変わらずふわっふわ」

 それは、いつものヴィーの触り心地と同じで。
 ずっと触っていたくなるモフモフ感に、結局満足するまでモフってしまった。

「ふふ、陛下ありがとうございました」

 癒されたぁと満足気にお礼を言った瞬間、私の目に映ったのは、私を見て愛おしげに微笑むセルヴィス様で。
 ただでさえ整った顔立ちをしているセルヴィス様にじっと見つめられた私は彼の色香に当てられて見惚れるしかできず。
 動けなくなった私はされるがまま。
 長い指で上を向かされ、私の視界は紺碧色に染まった。
 触れ合い、一瞬息が止まる。
 名残惜しそうに離れた後。

「すまない、つい」

 瞬きすら忘れたまま固まっていた私に、口元を手で覆ったセルヴィス様がそう言った。

「………〜〜〜----//////!?」

 確かに重ねられた熱を思い出し、私が言葉にならない絶叫したのは数秒後の事だった。
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