赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「……だいたい、ついって何よ! ついって」
芋蔓式にあの日の出来事を思い出した私は、何度目になるか分からない悶絶をする。
謝った、って事はなかったことにしたいってこと?
よく分からないけれど、あの日のセルヴィス様はだいぶおかしかったし、熱でもあって正常に判断できずついうっかり事故った的な?
と、私は納得できる解釈を探し、首を振る。
「……セルヴィス様の真意なんて考えたって、仕方ないことだわ」
キスをした後、大事なモノにでも触れるかのように優しく手を伸ばし、
『イザベラ』
と、彼は私の事をそう呼んだ。
その瞬間目が覚め、セルヴィス様に好かれているのではないか、なんて一瞬でも考えた自分を恥じた。
セルヴィス様は書類上とはいえ、イザベラの夫。そして、彼が見初めた"暴君王女"を演じていたのは私じゃない。イザベラだ。
「私は、偽物。間違えちゃ、ダメ」
自分に言い聞かせるよう何度も何度も戒めて、
「それにしても、猫派って。もっと言いようがあったでしょうに」
自分の行いを振り返り、落ち込む。
私だって、双子の片割れとして随分な扱いを受けて育ってきた。
獣人族の血を引いていて、狼に姿が変わるセルヴィス様が、人とは異なるその血のせいで、不当に扱われ沢山傷つけられてきただろうことは想像に難くない。
だというのに、私は優しい彼の心を傷つけた。
セルヴィス様はどんな覚悟で人狼だと明かしてくれたのだろう。
それを思うと心が鉛のように重くなり、どんな顔で会えばいいのか分からなかった。
そんな事を考えていた私は突風に思わず足を止める。乱れた髪を耳にかけた私は、なんとなく視線を上げた。
「空が、高い」
頬をかすめていく風の冷たさも。
降り注ぐ日差しの強さも。
見たもの感じたもの全部が全部、私に現実を突きつける。
残っている時間はもうあまりないのだ、と。
「……分かっていた事よ」
私は自分に言い聞かせながら遅延魔法のかけられた指輪をそっと撫でる。
余命一年の宣告を受けた日、どんな方法でも構わないから確実に半年動けるようにして欲しいと言った私に、サーシャ先生が用意したものがこの指輪だった。
『けして、コレを外さないでください』
それは通常の魔道具とは明らかに異なるものなのだ、と差し出したサーシャ先生の苦しげな顔を見てすぐに理解した。
『症状を遅らせることができる代わりに、この石に込められた魔力が尽きた時の反動は今感じている痛みの比ではないでしょう』
魔力を持たず自身で魔法を使うことのできない私が、時を遅らせるなんて強力な魔力の塊のようなモノを常時身につけているなんて本来なら望ましくない。
魔力耐性のない人間にとって、それは毒でしかないからだ。
痛みを誤魔化すだけなら麻薬で管理する方法だってある。でも、イザベラの代わりに帝国に乗り込む私が麻薬なんてこっそり持ち込めるはずもなく。
『リィル様、今からでもっ』
止めようとしたサーシャ先生の言葉を最後まで聞かず、私は自分の意志でこの指輪をはめた。
『リィル、聞いて。私の夢はね!』
私の両手を取り、無邪気に国を変えるのだと言った太陽みたいに眩しいイザベラ。
彼女の夢を聞くたびにそうなったらいいのに、って何度も思った。だけど、彼女が夢を叶えるのを見届けられるほど、私の寿命は持たないから。
「私は、私のすべき事をするだけ」
帝国にクローゼアを売国し、イザベラが生きていくための礎を築く。
イザベラが私のやろうとしていることを知ったら、きっと泣きながら怒るだろうけど。
『そんなこと、頼んでないわっ!!』
って。
「ここ、ね」
そのためにはまず後宮を追い出されないよう自分の食い扶持を稼がなくては。
そう気合いを入れ直し、指定された店のドアを開ける。
待ち合わせの相手の容姿をオスカーに尋ねたけれど、行けば分かるの一点張りで詳細は教えてもらえなかった。
ちゃんと会えるかしら? と店内に視線を彷徨わせ、私は大きく瞳を見開き息を呑む。
驚きすぎて、店内の騒がしい喧騒が一瞬消えた。
絡んだ視線のその先にいたのは、紺碧の瞳を魔法で茶色に変えたセルヴィス様だった。
芋蔓式にあの日の出来事を思い出した私は、何度目になるか分からない悶絶をする。
謝った、って事はなかったことにしたいってこと?
よく分からないけれど、あの日のセルヴィス様はだいぶおかしかったし、熱でもあって正常に判断できずついうっかり事故った的な?
と、私は納得できる解釈を探し、首を振る。
「……セルヴィス様の真意なんて考えたって、仕方ないことだわ」
キスをした後、大事なモノにでも触れるかのように優しく手を伸ばし、
『イザベラ』
と、彼は私の事をそう呼んだ。
その瞬間目が覚め、セルヴィス様に好かれているのではないか、なんて一瞬でも考えた自分を恥じた。
セルヴィス様は書類上とはいえ、イザベラの夫。そして、彼が見初めた"暴君王女"を演じていたのは私じゃない。イザベラだ。
「私は、偽物。間違えちゃ、ダメ」
自分に言い聞かせるよう何度も何度も戒めて、
「それにしても、猫派って。もっと言いようがあったでしょうに」
自分の行いを振り返り、落ち込む。
私だって、双子の片割れとして随分な扱いを受けて育ってきた。
獣人族の血を引いていて、狼に姿が変わるセルヴィス様が、人とは異なるその血のせいで、不当に扱われ沢山傷つけられてきただろうことは想像に難くない。
だというのに、私は優しい彼の心を傷つけた。
セルヴィス様はどんな覚悟で人狼だと明かしてくれたのだろう。
それを思うと心が鉛のように重くなり、どんな顔で会えばいいのか分からなかった。
そんな事を考えていた私は突風に思わず足を止める。乱れた髪を耳にかけた私は、なんとなく視線を上げた。
「空が、高い」
頬をかすめていく風の冷たさも。
降り注ぐ日差しの強さも。
見たもの感じたもの全部が全部、私に現実を突きつける。
残っている時間はもうあまりないのだ、と。
「……分かっていた事よ」
私は自分に言い聞かせながら遅延魔法のかけられた指輪をそっと撫でる。
余命一年の宣告を受けた日、どんな方法でも構わないから確実に半年動けるようにして欲しいと言った私に、サーシャ先生が用意したものがこの指輪だった。
『けして、コレを外さないでください』
それは通常の魔道具とは明らかに異なるものなのだ、と差し出したサーシャ先生の苦しげな顔を見てすぐに理解した。
『症状を遅らせることができる代わりに、この石に込められた魔力が尽きた時の反動は今感じている痛みの比ではないでしょう』
魔力を持たず自身で魔法を使うことのできない私が、時を遅らせるなんて強力な魔力の塊のようなモノを常時身につけているなんて本来なら望ましくない。
魔力耐性のない人間にとって、それは毒でしかないからだ。
痛みを誤魔化すだけなら麻薬で管理する方法だってある。でも、イザベラの代わりに帝国に乗り込む私が麻薬なんてこっそり持ち込めるはずもなく。
『リィル様、今からでもっ』
止めようとしたサーシャ先生の言葉を最後まで聞かず、私は自分の意志でこの指輪をはめた。
『リィル、聞いて。私の夢はね!』
私の両手を取り、無邪気に国を変えるのだと言った太陽みたいに眩しいイザベラ。
彼女の夢を聞くたびにそうなったらいいのに、って何度も思った。だけど、彼女が夢を叶えるのを見届けられるほど、私の寿命は持たないから。
「私は、私のすべき事をするだけ」
帝国にクローゼアを売国し、イザベラが生きていくための礎を築く。
イザベラが私のやろうとしていることを知ったら、きっと泣きながら怒るだろうけど。
『そんなこと、頼んでないわっ!!』
って。
「ここ、ね」
そのためにはまず後宮を追い出されないよう自分の食い扶持を稼がなくては。
そう気合いを入れ直し、指定された店のドアを開ける。
待ち合わせの相手の容姿をオスカーに尋ねたけれど、行けば分かるの一点張りで詳細は教えてもらえなかった。
ちゃんと会えるかしら? と店内に視線を彷徨わせ、私は大きく瞳を見開き息を呑む。
驚きすぎて、店内の騒がしい喧騒が一瞬消えた。
絡んだ視線のその先にいたのは、紺碧の瞳を魔法で茶色に変えたセルヴィス様だった。