赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
『"赤"は血の色だけじゃないわ』

 "黒"は高貴な色。
 "白"は神聖な色。
 "青"は王族の色。
 "紫"は魔術師の色。
 そして"赤"は不浄()の色。
 クローゼアでは赤色は厭われ、忌み子の私が唯一纏うことを許されたその色をさしてお母様は笑う。

『"赤"はね、戦う色』

 ふわりと私に真っ赤なローブを羽織らせて、

『どうか、生き抜いて。私の可愛いリィル』

 私が生きることを望んでくれた。
 私の大好きな色。

「どう、した?」

 撫でていた手が止まり、困惑した声が私に尋ねる。
 ポタリ、ポタリと雫が落ちてきて、自分が泣いているのだと気づく。

「リー……」

「私も……私も、赤色好きなんです。ダリアの花も」

 イザベラの偽物である事を嫌だと思った事はないけれど。
 セルヴィス様に私自身(リィル)を見つけてもらえた気がして。

「ありがとう、ヴィー」

 クローゼアの物置部屋にいた私ごと救われた気がした。

「嫌、だったら言って欲しい」

 そう前置きをして伸びて来た長い両手が私を優しく抱きしめる。
 温かくて、安心するその腕は、どうやったって私のモノにはならないのに。

「……嫌じゃ、ないですよ」

 私は静かにそう言って軽く腕をセルヴィス様の背に回し、身を預けた。

「……そう、か」

 良かった、と安堵したような声のあと、少しだけ腕に込められた力が強くなる。
 どれくらいそうしていたか、分からない時間が流れた後、

「もう、大丈夫です」

 私は腕からの解放を願い出る。

『向こうで私がうっかり皇帝陛下と恋に落ちちゃってたらどうするの?』

 クローゼアを出る時、イザベラを安心させたくて叩いた軽口。
 ただの冗談のつもりだったのに。

「……他のエリアも見に行きましょう? とっても広いから、時間がいくらあっても足りません」

 そういって私はセルヴィス様に先を促す。

「そうだな」

 行こうか、と立ち上がったセルヴィス様から差し出された手を取る。
 私は静かに歩きながら、生涯この気持ちをけして表に出したりしないと誓う。

(叶うなら、一度だけでいい。本当の名前で呼ばれてみたい)

 だから、そんな願望を胸の内に秘めることだけは許して欲しい。
 偽物なのだとけして見破られたりしないから、と。
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