赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
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 すやすやと寝息を立てて穏やかに眠る彼女の顔を見て、セルヴィスはホッと胸を撫で下ろす。
 彼女を起こさないようにと細心の注意を払って腕から抜け出したセルヴィスは人型に戻った。

「良かった。よく寝てる」

 そっと指先を伸ばし、柔らかな蜂蜜色の髪をさらさらと撫でる。
 一度寝ついてしまえば彼女がなかなか起きないのはよく知っているので、遠慮なく彼女のことを観察する。

「どこか、具合が悪いのか? ベラ」

 以前見た発作のように痛みに耐えている様子は見せないが、自分が知らないだけで本当は度々起きているのかもしれない。
 彼女は隠すのが上手いから。

「俺では、君の力になれないだろうか?」

 医者を極端に嫌がるイザベラ。いくら薬学に精通しているとはいえ、自国とは違い自由にならない今の状態では限界があるはずだ。
 とはいえ、彼女が拒む以上無理強いもできない。

『勿論! 直ぐにでもっ!!』

 売国の申し出を受けると言った時、天色の瞳には安堵と焦りの色が見えた。
 こちらで売国の算段がついたなら、イザベラはクローゼアに戻り売国するための手筈を整える気なのだろう。
 平時であってもあの王の指揮下で国が国としてきちんと機能するとは思い難い。ましてや戦後。やる事は数え切れないほどある。
 彼女が実質的に国を取り仕切っていたのだとすれば、彼女が不在の状態で国を回すことはかなり厳しいはずだ。
 おそらく、彼女には時間がない。
 だとしても。

『ヴィー、ありがとう。おやすみなさい』

 ふふっと幸せそうに笑った彼女の顔を思い出す。
 彼女をミリアのように失いたくはない。
 だから、彼女を傷つける人間がいると分かっている場所に、イザベラを渡すなんて絶対に許容できない。
 それがイザベラの望みなのだとしても。
 セルヴィスはそっと蜂蜜色の髪を掬い、そこにキスを落とす。

「クローゼアには帰さない。絶対に」

 彼女を見つめる紺碧の瞳は、強い決意を秘めていた。
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