赤いフードの偽物姫と黒いフードの人外陛下〜敗戦したので売国しに乗り込んだら、何故か溺愛生活始まりました〜
「陛下。あそこで"賠償金減額"の一言はずるいと思います」

 防音魔法が張られている事は知っているので、もう! と私は堂々と抗議する。
 だが。

「契約外だ、割増料金請求するぞ、って目で訴えるから」

 割増し手当支払えばいいかなって、とイタズラする子どものように笑うセルヴィス様。

「……正確に読み解いた上であえてやるのやめてくださいっ」

 そういう問題じゃないんですよ、とほぼ素が出かけている私の顎を持ち上げ視線を合わせたセルヴィス様は、

「ん、今日も顔色が良さそうで良かった」

 言い返せるなら十分だ、とほっとしたような色を浮かべた紺碧の瞳で私を見つめ、頭をそっと撫でた。
 実際、黒狼(ヴィー)と共寝をするようになってから嘘みたいに痛みが引いて、よく眠れていた。
 おかげで調子がすこぶるいいのだけど。

「……今、演技は必要ないですよ。陛下」

「そうだな」

 と、相槌を打つくせにやめる気はないようで。
 正直、困る。
 撫でる手つきが優しくて。
 誰かに心配され慣れていない私には、セルヴィス様の隣はあまりに心地良すぎるから。

「まぁ、でも誰がどこで見ているかなんて分からないだろ。ベラがわざわざキャメル伯爵家の関係者を宮中に招き入れたんだから」

 俺に断りもなく、とやや不服そうなセルヴィス様。
 ベラ、と呼ばれて私は自分が"偽物"でしかないことを自覚する。
 どれだけ心地良くても、コレに慣れてはいけない。
 軋む胸の音に気づかないフリをして、

「意地悪を仰らないで。あの状況で、私に断るという選択肢がなかった事くらい、陛下なら把握済みでしょう?」

 私はセルヴィス様の手を自身の手で退けて、暴君王女らしく微笑む。
 あの状況、つまり私がグレイスからニーナごとドレスを贈られることになった経緯を回想した。
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