根暗な貴方は私の光

プロローグ

 貴方が哀れに見えたから、そう言ったら貴方は怒るでしょうか。

 何の前触れもなく店に訪れた貴方は、いつも端の席に座って独りでいましたね。他の軍人さん達がいるのに頑なに彼らの会話に混ざろうとせず、ずっと相槌を打つばかり。
 初めて貴方達に出会った時の私は、仲が悪いのかな、無理矢理連れて来られて気を悪くしているのかなと思っていました。

 けれど、そうではなかったのですね。

 貴方はただ、目の前にある当たり前の日常に幸せを感じて、静かに噛み締めていただけ。

 私も同じでした。皆が楽しげに笑っていて、店にいる間は不自由な現実を忘れられる。
 そんな時間が何よりも大切で、そして愛おしかった。

 ずっと、ずっと、いつまでもこんな時間が続けばどれほど幸せだったことでしょう。

 貴方の隣で彼らを見守れたら、同じ時間を過ごして共に老いることができたら。

 叶いもしない願いがいつまでも私の心を束縛しています。貴方がいなくなってしまったせいで、私の中で貴方の存在がどれだけ大きかったのか知らしめられるのです。

 好きなままで、愛しているままで終わらせたかった。

 嫌いになってから、嫌われてから終わりたくはなかった。

 だから、私はあの夜、貴方の待つ所へは行かなかった。行けなかったのです。
 あの小さくまだまだ未来を見るべき彼女のように、別れの言葉を伝えには到底行けなかったのです。

 もし、貴方に別れの言葉を伝えてしまえば。

 もし、貴方に私の本心を伝えてしまえば。

 もし、貴方の本心を知ってしまえば。

 もう、私は貴方無しで生きていた頃には戻れなくなってしまったでしょう。

 これは、私のためだけではありません。貴方のためにも、こうするべきだったのです。
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