根暗な貴方は私の光
 焦っている様子の江波方の顔を見上げながら紬はふと考える。
 近頃、巷で“毒撒きの疫病神”という噂が流行っていた。突然死する人がある日を境に爆発的に増えたのである。
 まるで十年以上昔に流行った疫病神の噂と似ていると紬は考えた。

「まさか……あいつが………」
「あいつ?」

 腕を組んで考え込む江波方は誰に聞かせるでもなくぽつりと呟いた。
 紬は断片的にしか彼の言葉が聞こえず、聞き取れただけの言葉をオウム返しするしかできない。
 何処か上の空だった江波方は、紬の声にはっと顔を上げて彼女の顔を見た。

「ああ、いや……こっちの話です」
「……教えてください」
「ですが……」
「あんな様子の友里恵は見たことがないんです。何か知っているんでしょう?」
 
 江波方は紬から目を逸らして話をはぐらかそうとした。何か知っているのに隠されるのは、紬からしてみれば余計に不安が募るというもの。
 組まれていた腕に触れながら見上げれば、紬の圧に負けた江波方は観念したように語り出す。

「……紬さんも知っていますよね。昔町で流行った疫病神の噂を」
「ええ。疫病神に触れた人は変死するっていう」
「十年も昔に流れた噂は大した根拠もなかったこともあってすぐに皆から忘れられた。けれど、今はやっている“毒撒きの疫病神”の噂はそうではない」

 陶器で殴られたような衝撃が後頭部に襲い掛かってきた気がした。
 自分が考えていることを読まれたような気がしたのだ。実際には読んだわけでも察したわけでもなく、独りでに呟いたことを聞かれてしまったから仕方なく語っているだけ。
 それでも江波方の口から語られる話は、どれも紬にとって衝撃的なことであったのだ。

「俺は、弟を見つけたんです」
「弟さんを? 弟さんとその噂に一体何の関係が?」

 江波方は逸らしていた視線を紬に向け、そしてまた視線を自身の足元に落とす。
 意味深に途切れた話の続きが気になった紬は、無意識の内に身体を江波方へ傾けていた。
 そのことを知ってか知らずか江波方は寂し現表情を浮かべたまま口を開く。

「まだ分かりませんが、毒撒きの疫病神によって殺された人々は皆“樒の毒”で殺されたんです。そしてこの辺りで樒の木が生えているのは────」
< 49 / 93 >

この作品をシェア

pagetop