根暗な貴方は私の光
 光のない目を紬に向けていた友里恵は再び蕗へと視線を向けた。
 獲物を見つけた獣のように鋭い目。そんな目で見つめられた蕗はびくりを肩を震わせた。

「そんなことないわよ。彼は生きている、私の中で生きているの」
「友里恵、何を言っているの」

 そう言わずにはいられなかった。隣りに座っている友里恵の両肩を掴み、前後に揺さぶった。
 それでも友里恵が浮かべる不敵な笑みは消えない。それどころか、血相を変える紬が面白いとでも言いたげに、かすかに声を出して笑った。

「考えてもみて、死ねばあの人の元に行ける。一緒にいられるのよ」
「やめて、そんな事言わないで! おかしいわよ、どうしちゃったのよ友里恵!」

 紬の悲痛な叫びが店内に木霊する。蒼白した顔を歪め立ち上がる紬だが、友里恵は薄っすらと微笑んだまま彼女を見上げているだけである。
 不気味だった。目の前にいる友里恵が友里恵でないように感じて、見つめられることでさえ背筋に冷たいものが走る。
 何も言わずに立ち上がった友里恵は、紬の言葉など無視して玄関へ向かおうとした。紬は思わず彼女の腕を掴んだが、物凄い勢いで振り解かれてしまった。
 扉の前で拭きが立ち塞がり彼女を止めようとする。しかし小柄な蕗では、相手が女性であるとはいえ簡単に押し退けられてしまった。

「私はあの人の元に行きたいだけ。この世界から逃げるわけじゃないの」

 一瞬だけ振り返った友里恵はそう小さく言い残し、店を飛び出す。
 紬は先程振り払われたことで痛む右腕を擦りながら黙って見ていることしかできなかった。
 皆が面前で起こった出来事に理解が追いついていない。紬も江波方も皆呆然と開けっ放しになった扉の向こう側を見ているだけだった。

「行こう」

 そんな中、徐ろに立ち上がった仁武が扉の前で突っ立っている蕗の傍に寄る。 
 二人は互いに何か通じ合うと、あろうことか店を飛び出して行った。友里恵を追いかけようとしているのだろう。

「待て! 行くな!」

 珍しく声を荒げた江波方が二人を追って軒先に飛び出す。けれど外を見ても二人の姿はすでに消えていたようである。
 蒼白した表情で壁にもたれ掛かった江波方の横に紬は立った。
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