根暗な貴方は私の光
「戦争に何の意味があるの? どうして仁武達が死にに征くようなことをしないといけないの? どうして仁武達だったの!」
彼女の叫びを聞く度に紬の中で何かが崩れていく。今までずっと信じてきたことが全て壊されていく。
そうだ、蕗の言う通りだ。どうして戦争などするのだろう。どうして仁武や江波方が戦場へ死にに征くような真似をしなくてはならないのだろう。
誰も言わないから、誰も声を上げないから、自然と受け入れていたのだ。
けれど、自分が愛する人が死にに征こうとしていて受け入れられるはずなどない。
こうして抱き締めてくれる江波方がいつか死にに征く。そう考えると途端に身体から力が抜けた気がした。
これは、絶望だ。
「皆おかしいよ! 死んじゃったら元も子もないのにどうして戦争なんかするの!? 命を奪い合って、町を燃やして、その先に一体何があるの!?」
「繁栄だ」
蕗の叫びに全ての思考を奪われていた。凍りついていた心が溶かされ、洗脳されていた意識が晴れていくよう。
しかし紬のすぐ真上から否定の言葉が降り掛かってきた。
紬の身体を抱いていた江波方は少し身を離すと、血走った目を向ける蕗に冷徹な目を向ける。
「戦争をすることで日本は一歩前進するんだ。蕗ちゃんの言う通り、戦争とは愚かなものかもしれない。でもね、今の日本があるのは過去に起きた戦争が大きく影響しているんだ。勝ったり負けたり、日本は何度も戦争を繰り返してきた。今の生活があるのは、過去の過ちを経て作られたんだ」
「今の生活……? こんなのが良いものだって言うの? 江波方さんは、日本の身勝手な繁栄のためだったら戦争をしてもいいって言うの?」
それまでの真っ直ぐな言葉は何処へやら。目を伏せた江波方はそれ以上何も言わなくなった。
縋り付くように紬は江波型の軍服の裾を掴む。不安が募って助けを乞うように彼の顔を見上げても目が合うことはなかった。
彼のそんな様子を見た紬は身体中を襲う衝撃と絶望に打ち拉がれる。もう何も言えない、何も言い返せなかった。
「狂ってるよ! こんな事を平気で続ける国も、疑いもしないで信じ続ける人間も、何も言い返さない私達も!」
「ごめん、蕗。俺だってこんなことしたくないよ」
二人の会話を流し聞きながら江波方の胸元に顔を埋める。現実や自分の非力さ、それら全てから今は目を逸らしていたかった。