根暗な貴方は私の光
 廊下に突っ立って呆然と二人が走り去っていった方向を見ていると、不意に手を引かれた。
 振り返ればいつの間にか廊下に出ていた江波方が紬の手を握っている。紬と目が合った江波方は蕗達が向かっていった先に目を向け、もう一度紬の目を見た。
 この時の彼は何も言わなかったが、言わずとして自分達はここにいようという意思表明だったのかもしれない。
 やけに冷静な江波方を見ていると紬の心も自然と落ち着きを取り戻す。向けられる微笑みを見ていると紬も負けじと劣らず笑ってみせた。

「探しに行きましょうか」

 江波方に手を引かれ、蕗達が走り去っていった方向とは反対に進む。黒く焦げた廊下は歩く度に鈍い音を立てて軋んだ。
 長く先に続く廊下を見ていると気が遠くなるのを感じた。この教室の一つ一つを見て小瀧達を探し回るのは骨が折れる。
 それでも二人は黒くあちらこちらに硝子が散らばる廊下を進んだ。
 横目で教室の中を見ながら廊下を進む。すると二人が危うく通り過ぎようとした教室の中に和加代の姿があった。
 いち早く彼女の姿を見つけた紬は先に進もうとしていた江波方の手を引いて呼び止める。
 呼び止められた江波方は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに紬の視線の先を追った。

「小瀧さんはいないわね」
「そうみたいですねぇ。とりあえず、中に入りましょうか」
 
 ここへ来るまで一度も小瀧の姿は見ていない。流石に学校を出たなんてことはないだろうが、和加代を一人にしていることに違和感を感じた。
 教室の中を見渡す江波方もそれは同じであるようだ。繋いでいる手に力が籠もるのを感じる。

「和加代ちゃん、和加代ちゃん」
「きゃあ!」

 床に座り込んで何処か上の空である和加代の肩に触れると、脅かすつもりはなかったが想像以上の驚きを彼女は見せた。
 化物を見るような目で紬と江波方を見た和加代は、「なんだ、お二人でしたか」と言ってほっと胸を撫で下ろす。
 安心した様子の和加代を見ていると、ふと左手の人差し指を右手で覆い隠しているのが目に入った。

「それ、怪我したの?」
「え? ああ、情ながら……」
「大丈夫? 自分でやったのかしら」
「い、いえ! そうではなくて!」

 紬が一人で怪我の心配をしていると、何処か慌てた様子の和加代は声を荒げた。
 突然の変化に紬は圧倒される。見れば顔を真っ赤にした和加代が包帯が巻かれた指先を見つめていた。
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