根暗な貴方は私の光
 曇りのない眼差しを向けられ、感じていた蟠りが溶けて消えていく。
 きっとこの場にいる誰もが蕗の言葉に共感したことだろう。少なくとも紬は蕗の言葉に首が千切れてしまいそうなほど頷きたかった。
 しかし、そう思っていても紬はこの町に残ることができない。全てを捨てて逃げ出したあの日から、今もずっと後ろめたい気持ちが残っているのだ。
 親に合わせる顔がないって。

「俺も、この町に残りたかったな」

 嘆きのような独り言のような仁武の声が聞こえた。顔を上げると全員が仁武のことを見ている。
 俯いている仁武はそんな皆からの視線を感じ取ったのか、それとも何も知らないのか突然顔を上げた。
 その表情は生き生きとしていて迷いがない。真っ直ぐとした眼差しであった。

「あのさ、最後に皆で行きたい所があるんだ。一緒に来てくれないかな、あの丘に」

 最後にという言葉がやけに印象に残って気になった。胸の奥にへばり付くようにして残るその言葉は、紬にとっての足枷になる。
 気にしないようにしようと思っても何度もその言葉が脳裏に浮かんでは消えた。
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