根暗な貴方は私の光
覚悟を決めた彼らを止めることはできない。残酷なこの世の中は彼らを飛び立たせることで、この地獄を終わらせる気なのだ。
「ごめん、もう行くよ」
逃げるようにその場を離れていく仁武の後ろ姿を見つめたまま、皆は何も言わない。小瀧と江波方もその後を追うようにいなくなり、三人は丘の上に取り残された。
取り残された三人は何もできない無力さに打ち拉がれ、何もするでもなくその場に佇んだ。
彼らの覚悟を受け入れる余裕も、説得して止める力もない。
無力で弱い自分達はここでただ無駄な時間を過ごすことしかできなかった。
「愛したく、なかった……」
そんな言葉が口をついて出た。目の前の景色が輪郭を失って歪み、喉が閉まって息苦しくなる。
死にに征くことが分かっている彼らを愛さなければこんな想いをしなくても済んだのに、死にに征くことが分かっている彼らに出会わなければこんな想いを抱くことなどなかったのに。
結局最後には愛してしまった。好きになってしまった。想いを伝えてしまった。
彼から向けられた好意が紬の足枷になるように、彼にとっても紬からの好意は足枷になるのにだ。
愛してしまえば辛くなると分かっていて、それでも愛してしまった。
「あんまりよ……。こんなのあんまりよ、ひどすぎるわよ」
顔全体を手で覆い、指の間から涙が零れ落ちようと関係ない。ずっと我慢していた涙が彼らがいなくなって溢れ出したのだ。
もしこの時代に生まれていなければ、戦争などない別の時代で出会っていれば今も共にいることができたのだろうか。
「もう私には何もできない。止めることも、送り出すことも……」
自分は何を得ても最後には失ってしまう哀れな人間なのだ。人を愛しても皆死んでいってしまう。
疫病神が本当にいたならば、その疫病神のせいにできたことだろう。紬が愛す人間が死んでいくのは全て疫病神のせいで紬のせいではない。
そうすれば自分自身の心を守ることができたから。
けれど、かつて町を脅かす疫病神であった少女は立ち上がる。覚束ない足取りではあるが彼女は真っ直ぐと光に満ちた目を持っていた。
その目を見ると不思議と涙が止まった。自分よりも年下でずっと小さい彼女は、紬よりも大きな希望を持っている。
たとえ彼らと共に生きられないとしても、彼らと生きた時間を覚えている限り離れ離れにはならない。
紬達が彼らと過ごした時間を覚えていれば、ずっと彼らと繋がっていられるのだ。
「明日が来る、私達には明日がある。仁武達の分の明日を私達が生きないと」
月明かりを味方につけた蕗は、まるで夜空から舞い降りてきた女神のようであった。
寛大な心、そんな言葉では言い表せられないくらい蕗の目には決意と希望が満ちている。
かつて自分を救ってくれた女神と同じ笑顔を浮かべた小さな女神は、閉じていた目をそっと開けた。
「ごめん、もう行くよ」
逃げるようにその場を離れていく仁武の後ろ姿を見つめたまま、皆は何も言わない。小瀧と江波方もその後を追うようにいなくなり、三人は丘の上に取り残された。
取り残された三人は何もできない無力さに打ち拉がれ、何もするでもなくその場に佇んだ。
彼らの覚悟を受け入れる余裕も、説得して止める力もない。
無力で弱い自分達はここでただ無駄な時間を過ごすことしかできなかった。
「愛したく、なかった……」
そんな言葉が口をついて出た。目の前の景色が輪郭を失って歪み、喉が閉まって息苦しくなる。
死にに征くことが分かっている彼らを愛さなければこんな想いをしなくても済んだのに、死にに征くことが分かっている彼らに出会わなければこんな想いを抱くことなどなかったのに。
結局最後には愛してしまった。好きになってしまった。想いを伝えてしまった。
彼から向けられた好意が紬の足枷になるように、彼にとっても紬からの好意は足枷になるのにだ。
愛してしまえば辛くなると分かっていて、それでも愛してしまった。
「あんまりよ……。こんなのあんまりよ、ひどすぎるわよ」
顔全体を手で覆い、指の間から涙が零れ落ちようと関係ない。ずっと我慢していた涙が彼らがいなくなって溢れ出したのだ。
もしこの時代に生まれていなければ、戦争などない別の時代で出会っていれば今も共にいることができたのだろうか。
「もう私には何もできない。止めることも、送り出すことも……」
自分は何を得ても最後には失ってしまう哀れな人間なのだ。人を愛しても皆死んでいってしまう。
疫病神が本当にいたならば、その疫病神のせいにできたことだろう。紬が愛す人間が死んでいくのは全て疫病神のせいで紬のせいではない。
そうすれば自分自身の心を守ることができたから。
けれど、かつて町を脅かす疫病神であった少女は立ち上がる。覚束ない足取りではあるが彼女は真っ直ぐと光に満ちた目を持っていた。
その目を見ると不思議と涙が止まった。自分よりも年下でずっと小さい彼女は、紬よりも大きな希望を持っている。
たとえ彼らと共に生きられないとしても、彼らと生きた時間を覚えている限り離れ離れにはならない。
紬達が彼らと過ごした時間を覚えていれば、ずっと彼らと繋がっていられるのだ。
「明日が来る、私達には明日がある。仁武達の分の明日を私達が生きないと」
月明かりを味方につけた蕗は、まるで夜空から舞い降りてきた女神のようであった。
寛大な心、そんな言葉では言い表せられないくらい蕗の目には決意と希望が満ちている。
かつて自分を救ってくれた女神と同じ笑顔を浮かべた小さな女神は、閉じていた目をそっと開けた。